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日々、徒然

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今日もソフィーは空飛ぶ城といくつもの空間を走り回って、元気に働いている。
「ねぇハウル」
朝食後の片付けの最中に室内を横切ったソフィーは思い出したようにハウルを振り返った。
ハウルがあれから新調した家は、やはりハッター帽子店があった建物をベースにしている。
マルクルは別室でハウルから出された魔法のクイズと格闘中で、荒地の魔女はソファーにゆったりと腰掛けてヒンを膝の上に乗せながらまどろんでいた。
だから、大きいとは言いがたいソフィーの声であったけれど、コーヒー豆を挽いていたハウルには十分に届いて。ピタリとハンドルを回していた手を止めて、ハウルは顔を上げた。
「招待状が届いたんだけど、どうしよう」
続けられたソフィーの言葉は思いがけないもので、ハウルは少し眉を顰めた。
ソフィーが相談をもちかけるような招待状だ。
きっとろくなものではない。
もし、マーケットのなじみのお店からの招待状なら相談なんてしてこないだろう。
「招待状?誰から」
嫌な予感を隠さないハウルの口調に、すでに答えはわかってるんでしょう、とソフィーは微笑んで、飾り棚の上に置いてあった封筒を取り上げた。
それはつい数ヶ月前ハウル宛に3通も届いた手紙と酷似していて、違いといえば、ほんの少しハウルに届いたものよりも上等そうだということくらい。
ハウルは嫌そうに顔を顰めながら受け取って、ゆっくりと蜜蝋の印を確認してから、盛大な溜息を吐いた。
まるで準備していたかのような、大きな溜息を。
それから再度、封筒を裏返して宛名を確認する。
『ソフィー・ハッターさま』と、芸術的に見事な文字で書かれていて。
今度は無意識に溜息を零した。
それから、中を見てもいい?と顔を上げればその意を悟ったソフィーが戸惑うことなく頷いた。
内容は見た目のとおりの招待状。
変な呪いもなければ、怪しい罠もない。
ただ、差出人がサリマンであると言うことだけが引っかかって。
いや、それこそが最大の気がかりなのだけれど。
「・・・君と僕をお城に招待するって書いてあるね」
「そうなの。でも、こういうのってハウル宛に届くのが普通じゃない?わたしがお城に招待される理由もわからないし・・・」
そう言ってソフィーは首を傾げたけれど、ハウルにすればサリマンの意図が手に取るようにわかった。
もし、ハウル宛に招待状が届き、ソフィーの同席を求められてもソフィーはきっと今と同じ理由、「お城に招待される理由がわからない。きっと、社交辞令で書いただけよ」と言って城には近づきはしないだろう。
なんたって、面白い場所ではないのだから。
ハウルとて、呼ばれても行きたくなんかない。
けれど、この招待状はソフィーに届いたのだ。
そうすると、真面目なソフィーは行くだろう。
例えそれが「招待される理由がわかりませんからお断りします」というただそれだけの断りの文句を述べに行くだけだとしても。
だけど、ソフィーになくともハウルにはソフィーが城に呼ばれる理由が察する事ができた。
ソフィーはこの数ヶ月の間に「大物」に関わって、そして機運をいい方向に曲げたのだ。
例えば、荒地の魔女との遭遇であったり、隣の国の王子との出会いであったり。
サリマンとの対峙であったり。
もちろん、ハウルとの再会も含まれる。
そしてソフィーが城に赴くとなると、ハウルも必ずついてくることなど、サリマンにとっては考えるまでもないことなのだろう。
だったら2通だすよりもソフィー宛の招待状に、ついでのようにハウルの名前が書いてあっても、なんら不思議はない。
少なくとも、ハウルとサリマンの間には、なんの不思議は存在しない。
「・・・近々、戦争の終結を正式に文章にして発表するらしいから・・・もしかしたら、それかな」
「だったらわたし行かない」
ハウルの言葉にソフィーはすぐに返事をする。
「どうして?」
 城からの招待を受ければいいとは、ハウルは思っていない。
けれどすっぱりと言い切ったソフィーに理由を聞きたくて、招待状を封筒にしまい込みながら聞いた。
「戦争の終わりは嬉しいけど・・・。けどわたしはそれになにも関係ないもの」
「関係ないことはないだろう?隣の国との戦争だって、ソフィーがアイツを助けたから、終結することになったんだし」
隣国の王子、通称「カブ」の出現が戦争終結の糸口となったのは事実だった。
隣国の王子はこの国で行方不明になったから。
隣国は王子の行方を必死になって探したけれど、隣国からの数度の詰問にも、この国の王もサリマンもカブについては知らないの一点張りだった。
王については本当に知らなかったのだろうけれど、サリマンについてはそれも怪しい、とハウルは睨んでいる。
ただ、あの人が直接カブに手を下したことはないにせよ、カブの顛末を知っていながら口を噤んでいたことは容易に想像できる。
「でも、カブからはもうお礼を言ってもらったもの。お城には関係ないわ」
きっぱりとそう言いきったソフィーにハウルは肩をすくめて見せる。
これが、世間のお嬢さん方なら、大半は城からの招待に胸を躍らせるだろう。
戸惑いはあっても、誇らしさが勝り、ソフィーのようにはなから行かない、と斬って捨てることはないだろう。
「ソフィーはそう思うだろうね。今は世間がソフィーとカブの繋がりなんか知るはずもないけれど、それだってカブが隣国に私の呪いを解いて助けてくれた人が居る、って言ってしまえば、ソフィーこの国の、いや隣の国でも英雄になるんだよ。そうなった時に、王宮はみんなの恩人のソフィーになにもしていないなんてわかったら、王宮の威厳が下がるからね。国民だって、薄情な王様だって思うだろうし」
「だったらカブにそういうことは言わないでって頼むわ」
もしソフィーがカブにそう頼んだとしても、カブは遅かれ早かれソフィーを国民に紹介したいだろう。
もちろん、それはただの「恩人」としてではなくて。
それに、もしカブが口を噤んでくれたとしても。
ハウルの師匠はそれは矜持の高い人なのだ。
ソフィーがカブを助けたという事実が変わらない以上、城からの招待は止まらないだろう。
それどころか、何度も招待を断り続けていたら王宮への不敬罪として断じることができる。
ただ断られたことに対して、とってもバカらしいことだけれど、矜持を大切に生きている人たちというのは、そういうものだ。
「カブが言わなくっても同じさ。サリマン先生は人に恩や借りがあるのを嫌う人だから、とにかくソフィーになにかしたという事実が欲しいんだよ」
自分の矜持を守るためなら、人の命も厭わない。
だから、戦争なんかがおきる。
「・・・ばかみたい」
溜息みたいにそう零したソフィーにハウルは微笑んだ。
やり方は違ったけれど、確かに過去の・・・ソフィーと出会うまでのハウルもそうだったから。
傷つくのが恐いから、必死で守り続けるのだ。
その代わりに喪うものを、見てみぬふりをしつづけながら。
「僕もそう思うよ。けど、自由に生きられる人ばかりじゃないからね」
ハウルの言葉にソフィーはなにを思ったのか、暫く考え込んだあと、大きな溜息一つ吐いて、頷いた。
「これで気が済んでくれたらいいんだけど」
それはわからないよ、と言う言葉をハウルは飲み込んだ。
作品名:日々、徒然 作家名:綴鈴