二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

日々、徒然

INDEX|11ページ/11ページ|

前のページ
 

常春といえるような、不思議な気候。
枯れることのない花畑の中を、ソフィーはゆっくりとした足取りで歩いていた。
暖炉の中で、不安げにソフィーを見つめてきたカルシファーの顔が忘れられない。
ハウルを迎えに行ってくるわと告げたときの、ホッとした顔も。
カルシファーは忘れてしまったのかしら、とソフィーは口元を綻ばす。
ソフィーにとって、忘れがたい事件を。
けれど、他の人にとっては些細なことかもしれない。
この世界はたいていそういうものだ。
以前は家から出ることが億劫で。人と交わる事が恐かった。
今のソフィーなら、そんなの大したことじゃないと言ってのけられるだろう。
けど、あの時は外がとても恐ろしいものに思えて。
戦争の最中だったから、というそんな理由だけではない。
変わったのだ。
サリマンがいうとおり、人の心は変わりやすい。
そしてそれを心変わりというのなら、ソフィーはそれを受け入れる。
「・・・ハウル」
探していた人影を見つけて、ソフィーは静かにその名前を呼んだ。
出会ったときは自信に満ち溢れていて。
声を荒げるようなことなんかなくて。まるでおとぎ話の王子様のようだった。
でも一緒に暮らすうちに、大様な性格は言い換えればだらしないのだということがわかって、自由というのは無責任と紙一重だと知った。
それにとっても臆病で・・・。
情けない姿も見た。
そこまで思って、ソフィーの口元に自然と笑みが浮かぶ。
そんな姿を見て。
それでもハウルを好きだと思うのだから。
この想いは本物なのだと思うのだ。
きっと、ハウルが癇癪を起こしたとき。
それにつられてソフィーが感情を爆発させたとき。
その時、きっと本気でハウルの事が好きになったのだと思う。
「ね、ハウル」
振り返らない背中に、再度優しく声をかける。
「お茶を入れたのよ。なんていったかしら・・・前にハウルが買って来てくれたやつ。東の果ての、ドラゴンの国のお茶」
それでもハウルは振り返らない。
ソフィーは黙って、ハウルの隣に並んで腰を下ろした。
「クッキーも焼いたのよ。この前の市で買った杏でジャムを作ったから、それをのせてね。マルクルに味見してもらったら、おいしいって言ってくれたの」
戦争が終わって、煙に曇ることのなくなった空に、大きな雲が流れていく。
その向こうには峻険な山がそびえ、万年雪が谷に積もっている。
「・・・わたし、ハウルが居ればそれでいいの」
そっと絡めた指先は、冷えていて。
やっぱりソフィーは家出したレティーを思い出した。
花々の間を駆けてきた強い風が、ソフィーの銀の髪を揺らす。
「・・・・・・・・・・・・呆れた?」
風によってかき消されてしまいそうなほど小さなハウルの声を拾い上げて、ソフィーは微笑んだ。
自信に溢れていて、カッコつけたがりの、当代一の魔法使い。
でもその実は、虚勢を張った臆病なハウル。
ソフィーしか知らない、ソフィーのハウルだ。
「とっくの昔に、あきれ果ててるわ」
言葉とは裏腹の優しい声に、ハウルは深いため息を吐いた。
ハウルの溜息に、ソフィーは声を立てて笑う。
楽しそうなその声は風に乗って、花々の間をぬけて、今は平穏を取り戻した花々の空間に溶けていった。
作品名:日々、徒然 作家名:綴鈴