壊滅ブルー
このままでは能率が悪くなると判断し席を立った。
保健室で頭痛薬をもらうべく執務室を出ると、すでに消灯を過ぎていたらしく廊下に薄闇が広がっている。
生徒の騒ぐ声の聞こえないガーデンは酷く寂しそうだった。
そう思うのはキスティスが教師だからだろうか。
物思いに囚われつつ、辿り着いた保健室の扉を静かに開く。
つんと鼻を突く消毒薬の匂いに一度小さく顔をしかめ、来室者にも使える薬箱から頭痛薬を探し出してその場で飲み込む。
明かりは点けない。
奥で眠っているであろう教え子たちの眠りを妨げる気はないのだ。
そっと伺うと、月明かりの下で二人が並んで眠っていた。
ケアルガと大量のエリクサーのおかげか、目立った外傷は全て消えている。
頑丈なこの二人ならば明日になればすぐにでも自室に追い返される事だろう。
気配を殺しながら、並んだベッドの間に立って寝顔を見下ろす。
キスティスが誇る優秀な問題児たちは昼間の大喧嘩も忘れて静かな眠りを甘受しているようだ。
小さく笑みを浮かべてキスティスは囁きを落とした。
「おかえり、サイファー。お疲れ様、スコール」
そのまま踵を返そうとした時、二人分の声がキスティスを引き留めた。
「無理すんなよ先生」
「早めに休んでくれ」
熟睡しているのかと思いきや、鋭敏な彼らの感覚はキスティスの気配すらも捉えていたようで。
思わぬ声に、肩をすくめてキスティスはもう一度微笑んだ。
「貴方たちこそ今はゆっくりしなさい。私は大丈夫よ」
それから、両手を彼らの前に広げる。
訝しげにその手を見つめた二人だったが、苦笑しながらベッドから手を出し、そして。
夜の静寂と月明かりに包まれた病室の中で、手を合わせる音が響き渡った。
おかえり。お疲れ様。