壊滅ブルー
サイファーがこれまた常人離れした反射神経で隕石をかわすものだから、ごんごんと船着場に穴が開いていく。
その間にスコールは次の詠唱へと入っていた。
隕石が止み、サイファーが地を蹴ろうとした瞬間、大地魔法を発動。
「クエイク!」
サイファーの足下で大地が割れて足止めし、スコールはさらに次の詠唱に入った。
立て続けの魔法の行使でさすがのスコールにも疲れが見える。
何より、全力で長時間戦ったものだから身体中が悲鳴を上げているのだ。
揺れに耐えるサイファーはシェルを発動させてから何かを詠唱しているようだが、遅い。
息を整え、最後の一声を力強く吐き出した。
「……フレア!!」
圧倒的な力を含んだ赤熱の渦が空間に溢れ出した。
スコールが振り下ろした手に従って赤い光はサイファーへと襲いかかる。
展開したフレアの熱がサイファーを覆い尽くした瞬間、今度は向こう側から鋭い声が上がった。
「ブリザガ!」
サイファーの正面、中央を青い冷光が切り裂いていく。
その氷柱を砕くように突っ込み、サイファーは辛くもフレアから脱したのである。
さすがに両者とも息が荒かった。
凄まじいまでの魔法戦だが、見ている方は背筋が寒くなる思いでいっぱいだ。
「すっごい……」
「あの猛攻を耐えやがった……」
茫然自失、船着場どころか他エリアにまで広がりかけている被害も眼に入らないくらい、彼らの戦いに圧倒されている。
スコールたちは服はボロボロで傷も負っているものの、戦闘に支障が出る程の大きな負傷はない。
改めてスコールとサイファーの戦闘能力の高さを思い知らされた。
あの戦闘に加わるのは出来れば遠慮したいところである。
肩を大きく上下させて酸素を取り込みながら、サイファーはじろりと睨み付ける。
「お前、無茶、やりやがって…!」
「う、るさい…!」
あれだけの激戦を繰り広げておきながらも決着が付いていないのだ。
後は消耗戦か一撃必殺しか残されていないだろう。
双方、地面に突き刺して身体を支えていたガンブレードを抜き払う。
漆黒のハイペリオンを肩に担いだサイファーが、皮肉げに唇を歪めた。
「スコール、伝説のSeeD様がこんなに破壊活動していいのか? もっと伝説のSeeD様らしくした方がいいと思うぜ」
ニヤニヤと笑いながら嫌がらせのごとく言い放ったサイファーに、ぷち、とスコールの何かがキレた。
睡眠を邪魔された時点ですでにキレていたのだが、今のキレ方はその比ではない。
思いっきり、力いっぱい、全力でキレたのだ。
「あ、それ禁句…」
「うっわ、ヤベ…!」
セルフィとゼルが慌てて離脱を始める。
「へ? 何が……ってオイ! 止めろスコール、何考えてやがる!!」
無言でブチ切れたスコールは召喚の光をまとわりつかせたまま集中していた。
スコールが現在ジャンクションしているG.F.エデンをこの場で召喚するつもりなのだ。
当然、そんな事をすれば被害は大きくなるどころの話ではない。
さすがのサイファーも大いに慌てたのだが、スコールは聞いていなかった。
「俺が、好き好んで、そんなふざけた名称で、呼ばれてると思ってるのか…」
区切りながら、腹の底からの怒りを込めて吐き出すスコール。
「それもこれもサイファーのせいだろうが!!!」
一言吠えて、深く集中しスコールは詠唱に入った。
「チッ、聞いちゃいねぇな、このバカ。……オイ、待て! そこの二人!!」
すでに逃げの体勢に入っていたゼルとセルフィは、サイファーの一声で足を止める。
何だと聞き返す前にセルフィの身体から一つの力がすう、と抜けていった。
「ドロー、ジャンクション、G.F.バハムート!」
「うっそや〜!!?」
セルフィは涙目で叫びながら頭を抱えた。
それも当然の事、セルフィがジャンクションしていたバハムートをドローされ、あまつさえサイファーが召喚に入っているのだ。
つまり、エデンとバハムートがここでぶつかる。
どちらも秘されていた強大無比な召喚獣である。
もはや被害がどうのこうのと言っている場合ではない。
「ど、どないしよ…! やっぱりここはジ・エンドで…!!」
「わーッ! バカ、それは止めろ!!」
セルフィの必殺技ジ・エンドは即死技だ。
「じゃあどないせぇゆうんや〜!!」
「………………………逃げろ!!!」
言い切ってゼルは全速力で走った。
頷く余裕もなくセルフィもそれに続いた。
死に物狂いで走る中、スコールが召喚し、次いでサイファーの召喚する声が響き渡る。
「G.F.エデン! エターナル・ブレス!!」
「G.F.バハムート! メガフレア!!」
バカヤロウと叫んだゼルの声は破壊の白光とF.H.の崩壊に飲み込まれていき、後に残ったのは海に浮かんだスコールとサイファーだけだったという。
F.H.半壊、軽傷者数十名、重傷者二名、重体二名、死亡者ゼロ。
被害総額不明。
ちなみに、重傷者はゼルとセルフィであり、重体は言うまでもなく爆心地にいた二人の事である。
以上がガーデン闇の歴史の始点と言われるF.H.半壊事件の顛末であった。
「頭が痛いわ…」
報告書をまとめる手を止めて麗しき指揮官補佐が眼を閉じる。
いや、指揮官が病院送りになった事で今も代理業務が続いているわけだから、指揮官代理と言うべきか。
キスティスの頭痛の原因は心因的なものと物理的なものの両方だった。
事態の後始末の困難さによる心因的な頭痛と、F.H.半壊の報告を聞いて卒倒した時に出来たたんこぶによる物理的頭痛。
スコール、ゼル、セルフィの任務の引き継ぎ、予定の組み直し、F.H.の被害状況の調査とまとめ、F.H.に対する補償、広報の方針決定、サイファーたちの扱いの決定と周知、その他諸々。
やる事が多すぎて頭痛の一つや二つ発生しても全くおかしくはない状況である。
他のSeeDたちと手分けして取り掛かってもそう簡単には終わらない案件ばかりだ。
まったくもって頭が痛い。
アーヴァインも出張から戻り次第手伝わせよう。
実は、サイファーたちの今後の身の振り方についてはすでに決定している。
学園長の方針では三名を特別にSeeDとし、サイファーにはバラム・ガーデンの副指揮官の役職を与えるとの事だ。
実力から言えば問題はない。
三名とも十分SeeDとしてやっていける。
サイファーに至ってはSeeD最強のスコールとタメを張る。
ただし、実力以外の部分が大問題であった。
何と言っても戦犯の魔女の騎士とその仲間だ。
外交面での調整がかなり難航する事は予想に難くない。
まぁ、あの学園長の事だから戦争の補償金を払わせるための措置と言い張って切り抜けるのだろう。
半壊してしまったF.H.については補償が決定しており、すでにバラム・ガーデンから手付け金として補償金の一部が支払われている。
ゼルとセルフィから事の顛末を聞いた学園長はさすがにご立腹だったようで、F.H.に対する補償をスコールとサイファーに半額ずつ払わせる旨を早々に決定してしまった。
街中でエデンとバハムートを召喚して半壊させるという真似をした以上、言い訳のしようもない事であろう。
サイファーとスコールの借金人生はここから始まったのである。
「………」
酷くなってきた頭痛に目頭を押さえ、書類に向かって溜息を落とす。