二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
小柴小太郎
小柴小太郎
novelistID. 15650
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

お大事に

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
荒垣先輩が風邪をひいた。
 昨日、風邪をひいていたのにどうしてもタルタロスに行くと言って先輩の制止の言葉を聞かなかった私に、最後に根負けしたように、
「あん中に迷い込んでるヤツを捜しに行くだけ、なんだな? 見つけて救助したら引き上げて、すぐに撤収すんなら、仕方ねぇ、俺がつきあってやる。ただし、他の仲間はパーティーに入れんな。ひとりが風邪ひいてっと、同行してるヤツらにもうつりやすいからな」
 と交換条件を出してきて、私が頷くと苦い顔をしたまま、それでも探索に出ることを了承してくれた荒垣先輩だったけど……当然の結果として、私の風邪が先輩にうつってしまったらしい。
 私も風邪が治らないままだったけど、学校に行けないほどじゃない。だから、先輩が寝込んでいることを知ったのは、放課後になってすぐに寮に帰ってきてからのことだった。






 羽鳥から風邪をうつされた。
 いや、こうなることはわかってて同行したんだから、別に恨んでるわけじゃねぇ。ただ、こうも簡単にうつされちまうほど俺の体が弱ってるって事実を突きつけられた気がして、それがちっとばかり面白くねぇだけだ。
 ……それも承知の上であのクスリを使い続けてきたのも俺なんだから、全面的に俺のせいだ。羽鳥のせいじゃねぇ。
 しかし、ひとにうつせば治るっつーのはガセらしいが、ひとからうつされっとうつしたヤツより症状がひどくなるっつーのは本当らしいな。……くそっ。
 喉の奥から胸の半ばまで、嫌な感じにざらついてやがる。いつもより早い呼吸に合わせて体の中からわずかに掠れた音がして、それが変な風にひっかかると派手に咳の発作が出た。
 ああ……もともと、気管支やられ気味だったからな……。こういう時ってのは、弱いとこに覿面に来ちまうわけか。
 咳のしすぎで、体が熱い。なのに、なんとか咳が収まって落ち着いてくると、鈍い寒気がまたぞろ自己主張を再開しやがる。面倒くせぇな……寒いってこたぁ、まだ熱があがるのか、ちくしょう。
 寝返りを打って、ずれた上掛けを引っ張り上げる。
 寝りゃあ治る、と思って目を閉じても、眠気が戻って来やしねえ。頭の中も混線気味で、やたらと羽鳥のことばかり思い出した。
 そういや……あいつ、台風来た日にずぶぬれで帰って来やがって、まんまと風邪引いて寝込んでたな。しかも、かなりタチの悪そうなヤツで、熱が高ぇのに顔色なんか紙みてぇに真っ白で、俺が見つけたときなんざ階段の途中でへたりこんじまってて、なにやってんだこの馬鹿っつったら、薬局に風邪薬買いに行こうとして動けなくなったってんだから、本当に馬鹿だ。
 ……けど、本人、あれ覚えてねぇらしいな。
 そんだけ意識朦朧としてんのに、誰かに代わりに買ってきてもらえばいいだろうに、当たり前みてぇに自分で行こうとすんだから、しっかりしすぎてんのが1周しちまってやっぱり馬鹿っつーか、どうしようもねぇな。
 まあ……ひとに頼る、ってことを、もともと考えねぇ人間ってのは、いるもんだ。
 誰にも頼れねぇって環境で育ったヤツは、特にな……。
 俺然り、アキ然り、桐条然り……羽鳥も、たぶんそうなんだろうよ。
 風邪ひいてんのに、知り合いのじいさんを助けに行くっつってタルタロスに突っ込んでって、そのじいさんを見つけたときのあいつの顔が忘れられねぇ。
 まるで……てめえの実の祖父さんみてぇにおじいちゃん、っつって駆け寄って、泣きそうなツラして、でも笑ってやがった。泣きそうだったのも、ほっとして嬉しくて笑っちまったのも、どっちも本当なんだろうが……あんなツラはもう見たくねぇと思ったぜ。
 馬鹿なヤツだ……あんな細っせぇ体してんのに、ペルソナ能力に目覚めたばっかの転校生だっつーのに、変に度胸がよくていきなりの初戦で誰よりもまともに戦えちまったばっかりにリーダーなんて重てぇ役目任される羽目になって……なのに、いつでもまっすぐ立ってやがる。
 そういや、あいつ、やたらと姿勢がいいよな。
 歩き方も、桐条とはまた違った感じで迷いなく一直線にどんどん行っちまうから、女にしては歩くのが速かったっけか。そういう女ってのはかわいげがねぇっつーか、突っ張った感じがして面倒くせぇもんだが、あいつは別にそんなこたぁねえしな……。
 むしろ。
 そうだ……むしろ、どこか自由な感じがして、小気味いいっつーか。
 タルタロスでも、どんなシャドウ相手だっていつもの癖らしい仕草で片足引いて、軽く爪先をとんとんって打ち付けてから獲物を構え直すあれが妙にかわいらしくて、そのくせ、いきなりすげぇゴツいペルソナ出しやがって、その落差がひでぇっつーか……。
 つーか……なんで俺はあいつのことばっか考えてんだ?
 しかもなんだ……か、わいらしい、とかなんとか、素でさらっと出て来てなかったかよ、おい……。
「……駄目だ、熱で頭までぶっ壊れちまってるな、こりゃ」
 呟いた刺激で、また咳が出た。
 ちくしょう、かまうもんか、出るなら出やがれ。ついでに咳と一緒にまとめてこのおかしな思考も俺の中から出て行っちまえ!
 やけくそになって、上掛けを頭までひっかぶりながら思うさま咳をした。
 風邪のせいだ。それしかねぇ。それだけだ。当たり前だ。
 そう思うのに、目を瞑ればまっすぐに俺を見上げてごはん食べに行きませんか、なんて誘ってくるあいつが思い出されて、ついでに旨そうに飯食ってるとこだの、俺が何か訊けば答える前にゆっくりとひとつ瞬きするとこだの、俺が言ったことになんでだか笑い出しやがったときの顔だの、隣を歩くあいつの髪が小気味よく揺れるとこだのまで芋づる式に記憶から引っ張り出されて来て、俺は馬鹿みてぇにそれをアルバムでもめくるようにして眺めちまってる。
 馬鹿みてぇどころか、馬鹿すぎっだろ、そりゃ。
 どうでもいいが、あいつ、いっつもああやって上げてる髪、下ろしたら意外と長ぇんじゃねぇのか?
 ……あー、どうでもいい。マジでどうでもいいこった。
 どうでもいいから、風邪と一緒に早いとここのビョーキも治ってくれ、と心の底から切実に思った。
 俺が病んでるのは体だけで充分だぜ……ちっくしょうめ。






 寮のキッチンでおかゆを煮てみた。
 荒垣先輩の好みがわからなかったし、風邪で寝込んでるときに下手に味をつけすぎたものを食べるのはかえってしんどいかもしれないと思って、薄く天然塩を振っただけであとは何も入れなかった。
「あれ、一架っち、なにやってんだー?」
 ひょこりとキッチンを覗きこんできた順平にそう訊かれて、振り向きながらおかゆ作ってる、と答える。
「へえ。つーか、なんか楽しそうにやってっから、もっとゴツいもん作ってんのかと思ったぜ」
「楽しそう、だった?」
「おう。ハナウタ混じりで爪先とんとんしちゃってたぜー? なんつーの、彼氏にごはん作ってます的なオーラが出てるっつーかさ」
「うーん……その域に達するには調理師免許を取った上に死ぬほど厳しい板前さんに師事して10年くらい修行を積まないと駄目そうな気がするんだけど……」
「は? ……あー、ああ、なるほどね。おれっち、わかっちった……それ、荒垣さんに食わすやつなんだろ。そーだろ?」
「うん」
作品名:お大事に 作家名:小柴小太郎