縁の糸
「はい? いやいやいや、いいよ、そのままで。ただなんとなーく、さ、歳のわりに迫力ありすぎるから、見た目の印象だと俺とか自分とか言いそうな感じするんだよね。硬派っぽいってのかね。口調も結構無愛想……いやいや、硬派っぽいしさ。落差があるっつうか……でも、別にそれが悪いってわけじゃないんだぜ? ちょっと不思議な感じがしたってだけ」
「そうですか」
「そ。ただの個人的な感想だからさ、気にすんなよ」
気にするなというなら気にしなくていいのだろう、と受け取り、ライドウは無言で頷いた。
頬杖をついていた手で癖のある髪を掻きあげながら、鳴海がぼそりと密かに呟く。
「…………意っ外に素直すぎて、調子狂っちゃうんだよなあ」
「なにか仰いましたか」
「いやいやー、なんでもないよー。あー、晩飯どうしよっか? 近くに洋食屋あるけど、そこでいいか?」
いきなり外食、というのには内心でめんくらったライドウだったが、断る理由もないのではいと承諾した。
長椅子の上で丸くなっているゴウトに目をやると、閉じていた瞼があがって翠の眼が覗く。
「俺はいい。帰りに適当に見繕ってきてくれ」
「わかった」
ゴウトの言葉が猫の鳴き声にしか聞こえない鳴海は、普通に猫と会話しているライドウに「あー……」と軽く眉間を押さえたものの、それについては流すことにしたようで、三つ揃いの上着を着て帽子をかぶると、
「じゃ、行くか」
と先に立って事務所を出て行った。
それに続くライドウを見送り、ゴウトは再び瞼を下ろしながら溜息をつく。
「……不本意ながら、鳴海の気持ちが自分のことのようによくわかるな」
ゴウトのその独り言はライドウの耳に届くことなく、錆びた鳴き声として無人の事務所に溶けていった。