琥珀
【 プロローグ 】
庭の木に、白い花が咲いた夜。
幼い妹達を寝かしつけていたアズサは、突然の物音に飛び上がった。母の悲鳴と、陶器の割れる音が、階下から聞こえてくる。
妹達が怖がるので、武器の類を持ってこなかったことを悔やんだが、もう遅い。
立てかけてあった棒を掴んで、階段を駆け下りたアズサが見たものは、兵士に取り押さえられた父の姿だった。
「父さ…っ」
駆け寄ろうとして、近くに居た兵士に抑え込まれる。
――どうして?
どれだけ暴れても、十五歳になったばかりの力では、鍛えられた兵士には敵わなかった。
馬車に乗せられた父が連れて行かれた後、ようやく床に突き飛ばされる形で開放された。
夜が明けて、めちゃくちゃになった部屋の中で、陶器の欠片を拾っていた母が、父さんは何もしていないと言い切った。
小柄だが気丈な女性だった母は、子供達の顔を見て大丈夫と笑って、朝食の支度を始めた。
不安にぐずる妹達を宥めて食事をさせたが、アズサ自身に食欲は無かった。
ほとんど手付かずの食事に、母は苦笑いして、肩を叩いた。
「しっかり食べてよ。お兄ちゃんが、頼りなんだから」
全部食べておけば良かったと思ったのは、再びやってきた兵士達に、腕を掴まれた時だった。