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(仮) (タイトル未定:イナイレふどきど)

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「っ…?」

 重く纏わりついた生暖かい空気が肺にまで満ちるようで。
 覚醒した直後から、まるで溺れているような錯覚に陥る。
 短く横隔膜が痙攣し、見開いた瞳に映ったものは、宿舎内の自室の天井だった。

「漸くお目覚めか?」

 静かな部屋に思いもしない人物の声が響き渡り、鬼道は息を飲む。
 壁際に置かれたデスクに片肘をつき、口の端だけを笑みの形に歪ませて、不動明王は横柄に足を組んでいた。

「医者の息子様の有り難い見立てによると、間違いようのない熱射病で絶対安静・だとよ」

 デスクの上から引っ掴んだ、外気温との差に汗をかいたペットボトルを鬼道のベッドに向けて放り投げる。
 そうして再び頬杖をつく不動には、部屋を出て行く気配は無い。

「…何をしているんだ……」

 胸の上で受けとめたペットボトルは中の一部がまだ凍っていて、動かす度に軽い音を立てる。
 水分を視覚で確認した途端強烈な喉の渇きを自覚した鬼道は力を入れてキャップを外そうとしたが、それは予想外にすんなりと開く。
 予めフタが開けられていたのだろう。

「安心しろよ。別に変な細工なんてしちゃいない。お優しい佐久間君が、お前の為に開けておいてくれただけだぜ」
「………」

 半身を起こし、口に含んだそれは、甘酸っぱいスポーツドリンクだった。
 溶鉱炉のような体内に、冷えたドリンクが行き渡る。

「今は何時なんだ……練習は、どうなっている…?」
「…それが分からないようじゃ、今はお前を動き回らせるわけにはいかない。…おっと。文句は過保護なチームメイトと、オレをここに置いた監督サンに言ってくれよ?」
「どういうことなんだ……」
「………」

 エアコンの起動音だけが静かに響く室内で、薄膜に包まれた意識は思考を拒絶する。
 熱を持った腕を持ち上げ、鈍痛を訴えるこめかみ付近に触れた時、はじめて、ゴーグルが外されていることに気がついた。

「っ…」
「…それを外したのは円堂だ」
「……………そう…か…」

 枕元に目をやれば、畳まれたタオルの上にゴーグルが乗せられていた。

 一度深く瞳を閉じた鬼道は、再びベッドに全身を預ける。
 目蓋に乗せた手の平は、燃えるように熱かった。


(………)

 何故、久遠監督が不動を選んだのか。
 それが痛いほど理解出来るからこそ今は眠らなければいけないのだと、鬼道は己に言い聞かせ、再び眠りの淵へと降りて行った。









「最高の作品・ね」

 不動は組んでいた足を解き、ベッドに背を向ける形でデスクに向き直る。
 空港で影山の訃報を聞いた時、自分の中に生まれた感情はきっとここに居る誰の物とも違うのだろう。
 鬼道とも、佐久間とも…円堂とも、違う。

(身勝手な男だ)

 『死』というものに対しての感慨は、まだ無い。
 そしてその事実に振り回される自分もまた、彼の作品の一部であり、犠牲者なのだろう。

 息を詰めるよう、横たわる鬼道に対しての同情は無い。

(…だからオレを選んだのか)

 頑なに傍に居ると言い張った佐久間と円堂を押しのけて、久遠が指名したのは自分だった。






To be continued...