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take away

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息苦しさと共に意識が戻る。その途端に無理な体勢でいるせいか身体の節々が悲鳴を上げ、脇腹に鈍い痛みが走った。
薄暗い視界の中で、とりあえずうつ伏せだった体をゆっくりと起こす。両手は後ろ手で縛られているため自由にならないが、足までは拘束されていない。

ついていない、と帝人は思う。
いつもは三人だった帰りが、正臣は委員会で残ることになり、杏里とも途中で用事があるとかで別れた。
そのときだった。
いつものクセで携帯を取り出していると、随分ゆっくりと走るバンが近づいてきた。帝人は道の端に寄ってそれを避けようとした。
「おい、」
ふと顔を上げると見知らぬ青年が立っており、それを認識した瞬間、脇腹から全身にかけて衝撃が走った。ガクリと力が抜けた帝人の身体が受けとめられると、ガラリとバンの扉が開いた。
「こいつで間違いないのか」
「ああ、この目でハッキリと見たからな」
「やりー!これでアイツ、手も足も出ないな」
「ははは!まさかこんなに弱っちい奴だったとわな」
喋りながらも乱暴に帝人をバンに放るとその後に乗り込む。
バンっとドアが閉められると車は走りだす。
道の上にはポツリと携帯電話が残されていた。



お世辞にもキレイとは言い難い地面に転がされていたので、服が埃だらけだ。
ここがどこかは分からないが、今は使われていない廃工場とでもいうとこだろう。
気絶する寸前に聞こえた台詞から察するに、自分は誰かの弱点だと思われ浚われたようだ。
誰かに恨みを買われていそうな人は、考えてみると二人しか帝人には思い当たらない。
平和島静雄と折原臨也。
前者は無意識に、後者は意図的に、恨みを買っていそうではある。
だが自分がこの二人にとって弱みになるのかと問われると、首を傾げずにはいられない。
第一、まだ池袋に来て数ヶ月、それほど親しい人を新しく作るのには時間が足りない。たしかに見かければ互いに立ち話くらいはするが、それくらいだ。
見回してみるが、今のところ辺りに人影はない。気を失っている帝人を放ったらかしているのか、別の場所に待機しているのか。
どうにか脱出の糸口を見出そうと不自由ながら身体をまさぐってみるが、慣れた重みと感触がないところをみると、どうやら携帯はないようだ。そういえば、浚われてくる寸前に携帯を手に持っていた。もしかしたら落としてきてしまったのかもしれない。
我知らずに舌打ちがもれる。
近くにカバンが放り投げられているのを見つけ、近づいてなんとか後ろ手のまま開ける。
感覚からして両手を縛っているのはロープではなく、布状の物だ。なんとかこれを破けるものはないか。だが足を拘束されていないので、このまま走って逃げれるんじゃないか。いや、だが自分の体力を考えると…。
目まぐるしく思考を展開させていた帝人の耳に、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。反射的にカバンに手を突っ込むと、放り投げられた衝撃でペンケースの蓋が開いていたのか、ペン状の物を手に掴んだ。反射的にそれを袖の中に隠す。
廃屋の隙間から茜色が差し込み、もう夕暮れなのだと分かった。
早く帰りたい。
やってきたのは、やはり帝人を拉致した三人の男だった。いや、青年と言ってもいい。池袋の街中に溢れている、チーマー崩れのちょっとガラの悪そうな人々だ。
目を覚ましている帝人をニヤニヤと見下ろす。
「これで平和島静雄も終わりだな」
「さすがに人質がいれば手も出せないだろ」
「やっべー、オレらあの自動喧嘩人形に勝っちまうんだ」
オメデタイ頭の出来具合だと帝人は内心冷めた目で彼らを見た。だがしかし、本当に平和島静雄が来てくれるのだろうか。
「あ、あの」
「ああん?」
思わず口を出してしまい、乱暴な返答に反射的に肩を竦める。
「ほんとうに、平和島さんは来るんですか?」
「なんだと?」
こちらに詰め寄ってくるのに、帝人はジリジリと後ずさる。
「あの、自分で言うのも何なんですけど、僕それほど平和島さんと親しい訳では…」
「そんなはずねぇだろ!」
ガンッと近くにあったスチールボックスが蹴られる。
「オレは見たんだよ、あの平和島静雄とお前が街中でしゃべってるのをな」
「でも、それくらいで…」
「あの喧嘩人形と平気で口きける人間なんざ池袋にいねーんだよ」
それは偏見というものではないのか、と帝人は思う。話してみると分かるのだが、彼は怒って沸点が振り切れているとき以外は、意外なほど不器用で優しい青年だ。ただ恐ろしく堪忍袋の緒が短くて、その人間離れした力を上手く制御できていないだけで。
性格的にみると普通の人なんだけどなぁ、と帝人は首を傾げる。
「とにかくアイツの事務所に電話してやったからよ、もう少ししたら来るんじゃねぇか」
「お前はそれまで大人しく震えてろ」
「せいぜい役に立ってもらうからよ」
下種びた笑い声を響かせていた彼らの嘲笑が、一つ不意に消えた。
「あ、」
飛んできた錆びたドラム缶が、帝人から見て一番右側にいた青年に見事にぶつかった。彼はそのままドラム缶ごと廃墟の片隅に転がり落ちる。ドラム缶を空き缶と同じくらい簡単に放り投げられる人物を、帝人は一人しか知らない。
シーンとなった空間に、一つの足音が近づいてくる。
サングラスにバーテン姿、見上げるような長身に金髪、口元には煙草。
帝人はまるで映画かドラマのワンシーンを見ているような気分になった。
おもむろに静雄はその廃屋に付いている扉を引き剥がすと、槍投げの要領で片手て投げ飛ばす。それは左側の青年を巻き込んで、地面に斜めに突き刺さった。
ハッキリ言って、人間技ではない。
が、帝人の心は興奮で浮き立っていた。まるで実写版擬人化ゴジラを見ているようだと。
あっという間に二人が消え去り、残り一人になったところでハッと我に返ったように最後の青年が帝人を無理矢理引き摺り立たせた。
ズキリといまだに殴られた腹部が痛い。
「お、おい、コイツがどうなっても良いのか!」
言葉だけは威勢が良いが、完璧に腰が引けている。ヒヤリとした物が帝人の頬にあたり、それが小型の刃物であることは容易に想像がついた。
静雄は銜えていた煙草を地面に落とすと、靴裏で踏み付け火を消す。サングラスを外すと胸ポケットに入れた。
「俺は、」
「あ?」
完全にビビッてる、と人質でありながら冷静に観察していた帝人には、静雄の行動が嵐の前の静けさ、もしくは自分の衝動を発揮する前の準備運動に見えた。
「俺はこういう卑怯な手を使う奴らが大嫌いなんだよ!」
静雄が吠えた瞬間、今だと帝人は袖口に隠し持っていたペンを掌に滑り落とすと、カチリと後ろ手でだが出来るだけの力を込めて、自分を拘束している相手の腹部に付き刺した。
体勢的なものもあり、もともと腕力もなく余り力のない帝人の行動は、攻撃力の強いものではなかった。だが、意外性だけは充分にあった。そして、それを見逃す平和島静雄ではなかった。
ヒュンと帝人の傍を風が通り、気が付くと帝人を人質にしていた青年は遥か後ろに吹き飛ばされていた。
ホッと息を吐き出した帝人に、その手を縛っていた布を静雄は意図も簡単に引き裂いた。右手に握っていたボールペンを制服の胸ポケットに入れると、改めて目の前にいる彼に頭を下げた。
作品名:take away 作家名:はつき