祭の後【キャン甘3】
静かな夜道を彼は一人でゆっくりと歩いていた。
ジンベイとお面をつけたその姿から祭の帰りだということはわかるだろうが、誰かまではわからないだろう。彼をよく知るもの以外は……。
「ん?」
彼は歩みを止めた。
そこは彼と、彼の仲間たちの住処だった。が様子がおかしい。妙に明るいのだ。まるで先ほどの祭の会場のように……。
「あ、メタナイトさまだぁ〜! おかえりなさい〜。デートはいかがでしたかー?」
と水兵帽子のワドルディが飛びついてきた。
「わ、ワドルディ!」
突然だったのでよろけかけたが、なんとか抱きとめ、彼――メタナイトは叫んだ。
顔をよくよく見ると赤く高揚しているようであった、そして酒の匂いがした。
「……酔ってるのか?」
「エー何のことですか?」
ニコニコしながら、ワドルディは答える。……駄目だ、話にならない。
門を過ぎると庭になっているのだがそのあり様を見て頭を抱えた。祭にあったものと比べると小さく数も少ないが屋台があった。
「は、めひゃらいとひゃま、おかえりなしゃいまへ。」
アックスナイトが立ち上がり敬礼をする。舌が回っていないが彼が一番まだまともであるようであった。
なんせ他のメタナイツは起き上がることもできずにいるのだ。
「もう、のめだい、だすよぉ」
などとうめきながらひっくりかえっている。思わずため息をついた。
「一体、どういうつもりだ、デデデ大王。」
低い声でそういうと、デデデは物陰からぬっとでできた。
「何でわかったんだ?」
「何でわからないと思うんだ? こんな大掛かりなことを考え付いて、かつ実行できるのはお前ぐらいだ。」
「……そんな愉快な格好で謎解きされてもしまらないぞ。」
もっともなその言葉に唸ると、彼は部下に指示を出した。
「アックス、もう今夜は下がっていい、というよりあいつらの介抱をしてやってくれ。」
そのあとデデデのほうを振り返った。
「……一応、客人だからな、客間で待っておけ。……着替えてくる。」
そう言うと自室へと戻って行った。
「それで、いったい何の用だ。」
鈍い光沢の仮面に肩あて、藍色のマントといういつもの衣装に身を包んだ彼は不機嫌そうに二つの湯のみを置き尋ねた。
「いやぁ、祭の会場にお前さんたちの姿が見えないから、こりゃぁ真面目な騎士さんたちは不参加かと思ってよ。会場をこっちにも作って無理やりにでも参加させてやろうと思ってな。そしたら……。」
そこまで聞くとばつが悪くなって目線をそらす。
「カービィとの“デート”どうだった?」
「っ、お前!」
「いいじゃねぇか、いつもお前さんは真面目すぎるんだ。ちぃっとぐらい楽しんだほうが…」
かっかっか、と笑いながらお茶に口をつけたが、
「ぶっ、なん、だ、これは。お前がこんな悪戯をするとは思わなかった……。」
口をぬぐいながらデデデ愕然とした表情で言った。
「何のことだ。」
「これは雑巾玉露だろ!」
雑巾玉露とは零した茶を雑巾で拭き、それを湯のみに注ぐ代物である。
「な、わ、私がそんな低次元ないやがらせをするはずがないだろう。」
あんまりな言いがかりにメタナイトは慌てて反論する。
「自分で茶を入れたことがないんだ、仕方ないだろ。」
「すると……、俺様はお前のハジメテを頂いちまっ」
「妙な言い方をするな!」
彼はらしくもなく、身を乗り出し叫んでしまう。
が唇に人差し指をあて、あいつらが起きるんじゃないか、とささやくデデデを見るとまた座りなおす。
「だいぶ焦れてるな。普段のお前ならこれくらいの事軽く受け流すだろうに。」
デデデの表情がからかいを含んだものから真剣なものへと変わる。
ああ、この顔だ。メタナイトはその目線から一度逃れようとしたがまた向き合わせる。
「お前のそういうところが私は……」
「好きだってか。」
目を細めてそう言われ、彼はそっぽを向く。
「お前と話すと調子が狂う。」
「ずっと狂いっぱなしだろう、あのピンクの悪魔が現れてから。」
「そうだな。」
目線を落とす。メタナイトは間が持たなくて湯のみを持ち上げたが、先ほどのデデデの様子を思い出したのか飲むのをやめた。
「部下たちにその思いがバレてるのは気付いてたのか。」
「……別に隠していたわけじゃない……積極的に言ったわけでもないが。」
隠す隠さないではないのだ。そのことを気にする余裕がなかっただけなのだ。それほどまでに自分はまいってるのだろう。
そう思うも口には出さない。デデデはメタナイトの返答からそのことはとうに気付いている、とメタナイトは考えたのだ。
「いい部下だな。自分たちがいるとお前が気にしてカービィといちゃつけないから」
「い、いちゃ……」
「気を使ってここにあいつらは残ったんだろ。」
その言葉にうなずいた。
「私には過ぎた部下だ……。」
彼らだってこの祭りを楽しみにしていただろうに、私は構わないと言ったのに、彼らは優しすぎる。
そう思ってメタナイトは口を閉ざした。
「祭は楽しかったか?」
「楽しくなかったと言えば私のために時間を費やしたものたちにすまないな。」
いや、と言って言いなおした。それは事実であるが、本心であるが、答えではない。
「祭が終らなければいい、と思うほどには楽しかったよ。」
飾り立てた嘘や誤魔化しなど彼には意味がない。難しいことは削り取って本質を見つけ出す、良くも悪くも単純(シンプル)なのだ。
その答えにデデデはにやりと笑って言った。
「しっかし、お前さんが八百長するとはねぇ。」
「心外だ。私は、八百長なんかしていない。」
一息置いてから彼は続けた。
「私が負けたのは己自身だ。」
――私はあのときカービィに勝てるとは全く思っていなかった。なのにあんな賭けを持ちかけたのは……。
首を振って、顔を挙げた。
「で、本題は何だ。」
「ん?」
「祭を届けに来ただけならさっさと帰るだろう。」
「いや、お前が引き留めたんだろ。」
デデデそうまぜっかえすように言ったが、仮面の奥からのじとぉという視線にお手上げだというジェスチャーをした。
「依頼があるんだよ。鏡の国って知ってるか。」
「聞いたことは。」
「最近なんか、鏡が妙な感じがするんだよな。何か異常があるような……。」
あいまいな言い方だがこんなときのデデデの危機察知能力というか、動物的勘というか、は外れない。
理屈ではない、他のなにかで彼は物事を見る。その瞬間メタナイトは普段おちゃらけているデデデに王者の気を見出す。……まぁ調子に乗らしたくないのでそのことを言う気はないのだが。
「異常があると思ってるんだったら、今日みたいな思いつきは慎んだらどうだ。」
「明日終わるかもしれないんだ、だったらすぐにでもやりたいことをやりたいんだ。」
「その理屈だから、お前はしょっちゅう妙なことをやるんだろう。」
はぁ、とため息をつく。ひとの生き死には分かりやしない。平和なプププランドでもそうなのだ。
ひとはいつかは死ぬ、だがそのいつかは誰にも分からないのだ。
「鏡の国の入り口は閉ざされている。だが鍵がこちらの世界にあるんだ。なんかもう分かってるだろう。」
「宝剣ギャラクシア……。」
ジンベイとお面をつけたその姿から祭の帰りだということはわかるだろうが、誰かまではわからないだろう。彼をよく知るもの以外は……。
「ん?」
彼は歩みを止めた。
そこは彼と、彼の仲間たちの住処だった。が様子がおかしい。妙に明るいのだ。まるで先ほどの祭の会場のように……。
「あ、メタナイトさまだぁ〜! おかえりなさい〜。デートはいかがでしたかー?」
と水兵帽子のワドルディが飛びついてきた。
「わ、ワドルディ!」
突然だったのでよろけかけたが、なんとか抱きとめ、彼――メタナイトは叫んだ。
顔をよくよく見ると赤く高揚しているようであった、そして酒の匂いがした。
「……酔ってるのか?」
「エー何のことですか?」
ニコニコしながら、ワドルディは答える。……駄目だ、話にならない。
門を過ぎると庭になっているのだがそのあり様を見て頭を抱えた。祭にあったものと比べると小さく数も少ないが屋台があった。
「は、めひゃらいとひゃま、おかえりなしゃいまへ。」
アックスナイトが立ち上がり敬礼をする。舌が回っていないが彼が一番まだまともであるようであった。
なんせ他のメタナイツは起き上がることもできずにいるのだ。
「もう、のめだい、だすよぉ」
などとうめきながらひっくりかえっている。思わずため息をついた。
「一体、どういうつもりだ、デデデ大王。」
低い声でそういうと、デデデは物陰からぬっとでできた。
「何でわかったんだ?」
「何でわからないと思うんだ? こんな大掛かりなことを考え付いて、かつ実行できるのはお前ぐらいだ。」
「……そんな愉快な格好で謎解きされてもしまらないぞ。」
もっともなその言葉に唸ると、彼は部下に指示を出した。
「アックス、もう今夜は下がっていい、というよりあいつらの介抱をしてやってくれ。」
そのあとデデデのほうを振り返った。
「……一応、客人だからな、客間で待っておけ。……着替えてくる。」
そう言うと自室へと戻って行った。
「それで、いったい何の用だ。」
鈍い光沢の仮面に肩あて、藍色のマントといういつもの衣装に身を包んだ彼は不機嫌そうに二つの湯のみを置き尋ねた。
「いやぁ、祭の会場にお前さんたちの姿が見えないから、こりゃぁ真面目な騎士さんたちは不参加かと思ってよ。会場をこっちにも作って無理やりにでも参加させてやろうと思ってな。そしたら……。」
そこまで聞くとばつが悪くなって目線をそらす。
「カービィとの“デート”どうだった?」
「っ、お前!」
「いいじゃねぇか、いつもお前さんは真面目すぎるんだ。ちぃっとぐらい楽しんだほうが…」
かっかっか、と笑いながらお茶に口をつけたが、
「ぶっ、なん、だ、これは。お前がこんな悪戯をするとは思わなかった……。」
口をぬぐいながらデデデ愕然とした表情で言った。
「何のことだ。」
「これは雑巾玉露だろ!」
雑巾玉露とは零した茶を雑巾で拭き、それを湯のみに注ぐ代物である。
「な、わ、私がそんな低次元ないやがらせをするはずがないだろう。」
あんまりな言いがかりにメタナイトは慌てて反論する。
「自分で茶を入れたことがないんだ、仕方ないだろ。」
「すると……、俺様はお前のハジメテを頂いちまっ」
「妙な言い方をするな!」
彼はらしくもなく、身を乗り出し叫んでしまう。
が唇に人差し指をあて、あいつらが起きるんじゃないか、とささやくデデデを見るとまた座りなおす。
「だいぶ焦れてるな。普段のお前ならこれくらいの事軽く受け流すだろうに。」
デデデの表情がからかいを含んだものから真剣なものへと変わる。
ああ、この顔だ。メタナイトはその目線から一度逃れようとしたがまた向き合わせる。
「お前のそういうところが私は……」
「好きだってか。」
目を細めてそう言われ、彼はそっぽを向く。
「お前と話すと調子が狂う。」
「ずっと狂いっぱなしだろう、あのピンクの悪魔が現れてから。」
「そうだな。」
目線を落とす。メタナイトは間が持たなくて湯のみを持ち上げたが、先ほどのデデデの様子を思い出したのか飲むのをやめた。
「部下たちにその思いがバレてるのは気付いてたのか。」
「……別に隠していたわけじゃない……積極的に言ったわけでもないが。」
隠す隠さないではないのだ。そのことを気にする余裕がなかっただけなのだ。それほどまでに自分はまいってるのだろう。
そう思うも口には出さない。デデデはメタナイトの返答からそのことはとうに気付いている、とメタナイトは考えたのだ。
「いい部下だな。自分たちがいるとお前が気にしてカービィといちゃつけないから」
「い、いちゃ……」
「気を使ってここにあいつらは残ったんだろ。」
その言葉にうなずいた。
「私には過ぎた部下だ……。」
彼らだってこの祭りを楽しみにしていただろうに、私は構わないと言ったのに、彼らは優しすぎる。
そう思ってメタナイトは口を閉ざした。
「祭は楽しかったか?」
「楽しくなかったと言えば私のために時間を費やしたものたちにすまないな。」
いや、と言って言いなおした。それは事実であるが、本心であるが、答えではない。
「祭が終らなければいい、と思うほどには楽しかったよ。」
飾り立てた嘘や誤魔化しなど彼には意味がない。難しいことは削り取って本質を見つけ出す、良くも悪くも単純(シンプル)なのだ。
その答えにデデデはにやりと笑って言った。
「しっかし、お前さんが八百長するとはねぇ。」
「心外だ。私は、八百長なんかしていない。」
一息置いてから彼は続けた。
「私が負けたのは己自身だ。」
――私はあのときカービィに勝てるとは全く思っていなかった。なのにあんな賭けを持ちかけたのは……。
首を振って、顔を挙げた。
「で、本題は何だ。」
「ん?」
「祭を届けに来ただけならさっさと帰るだろう。」
「いや、お前が引き留めたんだろ。」
デデデそうまぜっかえすように言ったが、仮面の奥からのじとぉという視線にお手上げだというジェスチャーをした。
「依頼があるんだよ。鏡の国って知ってるか。」
「聞いたことは。」
「最近なんか、鏡が妙な感じがするんだよな。何か異常があるような……。」
あいまいな言い方だがこんなときのデデデの危機察知能力というか、動物的勘というか、は外れない。
理屈ではない、他のなにかで彼は物事を見る。その瞬間メタナイトは普段おちゃらけているデデデに王者の気を見出す。……まぁ調子に乗らしたくないのでそのことを言う気はないのだが。
「異常があると思ってるんだったら、今日みたいな思いつきは慎んだらどうだ。」
「明日終わるかもしれないんだ、だったらすぐにでもやりたいことをやりたいんだ。」
「その理屈だから、お前はしょっちゅう妙なことをやるんだろう。」
はぁ、とため息をつく。ひとの生き死には分かりやしない。平和なプププランドでもそうなのだ。
ひとはいつかは死ぬ、だがそのいつかは誰にも分からないのだ。
「鏡の国の入り口は閉ざされている。だが鍵がこちらの世界にあるんだ。なんかもう分かってるだろう。」
「宝剣ギャラクシア……。」
作品名:祭の後【キャン甘3】 作家名:まなみ