あるお姫様の話
ああ、そうなんだとイースは思いました。私が全てを消したいと願っていたのと同じように周りの人たちも私に消えてほしいと願っていたんだと。でも、イースが目の前から消えるという時に、泣いてくれたお姫様がいたのを思い出しました。
更に盗賊がその剣でイースを斬ろうとしたその時です。ウエスターがイースをかばいました。剣で斬られる寸前にイースをかばって、その怪我をものともせずに盗賊たちを追い返しました。イースはただ一つ残されたオルゴールを抱えてふるえました。
「大丈夫ですか、姫」
大きな傷を受けたウエスターはそれでも笑っていました。イースはまた気付きました。お姫様と同じようにウエスターだけがイースといつも一緒にいて、イースがどんな酷いことを言っても笑って許してくれたり、怒ってくれたりしたのはずっとウエスターだけでした。倒れるウエスターに生まれて初めて涙を流したイースは駆け寄りました。イースは初めて流した涙を止める術を知りません。
「ウエスター、ウエスター」
また初めてウエスターの名前を呼びました。イースは全てを憎んでいるといって、ウエスターやお姫様のように優しくしてくれる人たちに甘えていた自分に気付きました。そしてたくさん後悔の涙を流しました。
「私は王様にもお妃さまにも、殺されてしまったわ。私はたくさんの人に憎まれていたわ。でもウエスター、あなたとお姫様だけ。こんな私を許してくれたのは」
「でも、これからどうしたらいいの。お姫様とあなたしかいない私は、もう殺されてしまった。私は本当にここで死ぬべきなの」
「でも、死にたくない。私はもう何も憎めなくなってしまった。私は何かを愛してみたい。死にたくないの」
わんわん泣くイースはあの時お姫様が泣いた理由がわかった気がしました。
「死んだのならば、生まれ変わればいいのです、姫」
力の入らない手でイースの涙をそっとぬぐいました。ウエスターはいつもの笑顔をイースに見せました。冷たくなっていくウエスターの手をイースは握って、もう一方の手でいつも叩いていたウエスターのほほを包みます。
「姫は今とても優しい心をもって生まれたのです」
「だから、今たくさんのものを愛してください」
冷たくなっていくウエスターのほほを温めようとイースは必死に包みます。
ウエスターは冷たくなって、やがて動かなくなりました。