桔梗
そこにいる人物は淡々と話す。庄左エ門は少しだけ恐怖を覚える。
「イク・ヤミ。ありがとう。戻れ」
黒衣の忍者の言葉に狼と梟は闇へ消えた。
「あなた…は」
「お前が知るべき事柄ではない。ただの気紛れだ」
そういって忍者は消えようとした。が、それと同時に山田・土井の両先生が来た。
「庄左エ門!!」
「大丈夫か!」
「山田先生! 土井先生!」
両先生は庄左エ門の無事を知るとほっとする。しかし、そこにいた、黒衣の忍者に警戒した。
「…お前は誰だ?」
「何故、ここにいる!」
「……」
無言の忍者に二人は武器を構える。が、庄左エ門の言葉にそれを解く。
「先生! 私は、あの人に助けてもらったんです!」
「こいつに?」
「はい…」
庄左エ門は必至になってとめた。助けてもらった。それを恩を仇で返すことになるのは嫌だった。
「お前は…どうしてここにいる?」
「私の獣たちが教えてくれただけ。ここに子供が捕まっているとな」
「何故…助けた?」
黒衣の忍者がどうして助けたのか。それが不思議だった。
「ここは私の森だ。それを守って何が悪い?」
「森?」
土井が問いかける。
「そうだ、ここは私の庭。あの山賊の輩がいていい場所ではない。ここは獣の森。人が入っていい場所ではない」
そう言ったとき、強い風は吹いた。そして、黒衣の忍者はそこから消えていた。ただ、庄左エ門には聞こえない矢羽音で二人には声が届いていた。
『これから、1年生だけのお使いはやめておけ。せめて、四年以上の上級生をつけるべきだな。じゃないと…子供達が消えるぞ』
その言葉に何も返せなかった。今回のことは自分達の判断ミスでもある。それを他人、それも知らない者から言われてしまうとは…。
「あれはいったい何者なんですかね」
「黒衣の着物…盲目の忍者」
どこかで聞いたことがあった。
「…あれが華乱ですよ。父上」
「利吉くん? どうしてここに」
「子供達は学園にちゃんと届けました。その帰りです」
「利吉さん。華乱って?」
庄左エ門の言葉に利吉は答えた。
「風神の申し子、華乱です。こちらの世界では有名ですよ」
「…あれが華乱か」
「あんなに小さい子供が?」
見た目は庄左エ門より小さく感じた。
「でも、一流です。私でさえもまだ敵わない」
「利吉さんでも?」
「お前でもか?」