桔梗
庄左エ門は思う。皆を逃がすために立てた作戦はうまくいった。が、肝心なところで足をくじいてしまい捕まってしまったのだ。ただ、安心なのは捕まったのは自分一人だけだということ。他の皆は逃げ切れたようだ。ならば助けは来る事は確実だった。山賊の目的はお金。どうやら、いい所の坊っちゃんに見えたらしい。それならば行動を起こさずに助けを待つのが無難である。命はお金を貰わない限りは、まだ助かるはずだからだ。さすがに、一人でどうにかしようとは思わなかった。は組の皆がいるならば、動かすが、一人では出来ることは限られていた。山賊は、お金をどうとるのかを相談しているため、自分には見向きもしていない。だが、手に武器を持っているので下手に動くこともできない。足を挫いた分、動けば命取りだった。
そんなとき、どこからか獣の声が聞こえてきた。それは、聞き覚えのある動物のもの。
「おい。何か聞こえないか?」
「そうだな。…外の空気もなんか変だな」
「外を見てくる」
既に夕暮れ。夜と夕が交わる時間だった。
「ぎゃ!」
「なんだ! 何があった!」
「わからん。だが、…何かおかしいぞ」
外から聞こえた声にそこにいた山賊達が騒ぎ出す。もうパニック状態になっていた。そこに、バンっと扉が開いた。
「…狼!」
「どうして、こんな処に狼なんているんだよ!」
「知らな…」
慌てている山賊達。狼は山賊達に襲いかかっていた。
庄左エ門は突然のことで頭が回らない。何が起こったのか。そんな庄左エ門を誰かか抱きかかえた。
「そのまましゃべらずにいろ」
庄左エ門は驚いたが敵意がないことがわかったので、そのまま頷いた。自分と同じ体格…いや、それよりも小さいかもしれない身体に抱きしめられる。その人物はひゅっと何かを吹いた。それと同時に狼以外の獣の声も聞こえた。
「なんだよ! この梟は!」
「逃げるぞ!このままじゃ…食われる!」
「ああ!!」
山賊は庄左エ門のことなど忘れたように、小屋から逃げて行った。そこに残ったのは庄左エ門ともう一人の人物。そして、獣たちだけ。
「もういい」
庄左エ門は抱きしめられていた身体を離された。そして、見たものは大きな狼と梟。そして、黒衣の忍者だった。
「…これは?」
狼の口には血がついていた。
「殺したんですか…」
「さあな。だが、そう思いたければそう思えばいい」