桔梗
「乱太郎の言うこと、ちゃんと聞いておけばよかった」
後悔してもしても遅い。
経験上、山に迷ったときは歩かない方がいい。ましてや夕暮れ。そこまで闇は迫っている。きり丸は薬草を入れていた籠を下ろす。
「あー、オレってバカ」
自分の頭をポコポコ叩く。そんな中、奥から動物の声が聞こえた。
「ぐるる」
「…ちょ、まじヤバい?オレ」
その獣の声が近づいているが、きり丸は動くことが出来ない。
すぐそこまで声が近づいたとき、きり丸の知る声がきり丸と獣の間に入った。
「きり丸!」
「…らん、たろ」
乱太郎はきり丸を背にして獣のいる方向を見つめた。
「きり丸、そのままいて」
「あ、あ」
乱太郎は獣がいる空間をじーと見つめていた。実の所、森の主の場所にイクが行き話をつけていた。ここの主はイクの眷属ではない。だが、気は優しいと聞いていた。人よりも獣同士の方が話しやすい。小さくイクの声が聞こえた。もう、大
丈夫という合図。乱太郎はイクと頭上にいるヤミにありがとうと呟いて、後ろにいるきり丸に向き直った。
「この小銭バカ!ちゃんといったよね!奥にはいかないって」
「ごめん」
「心配したんだよ?しんべヱだって入り口で一人で待っていてくれてるの!」
乱太郎が怒るときり丸は、少しずつうつむいていく。
「心配かけてごめん」
きり丸の言葉に乱太郎はため息をつく。この友人が反省しているのは態度でわかる。だから。
「心配かけたと思うならもうしないでよ」
そういって、乱太郎はきり丸をぎゅと抱き締めた。
「無事でよかったあ〜」
乱太郎の言葉とその温かさにきり丸は安心する。ちゃんと帰る場所なのだと思える。
「乱太郎…」
「きりちゃん!もう心配かけちゃダメなんだからね?」
「ああ」
きり丸は少し涙目で頷いた。
それから、持っていた紐をたどり、入り口にいたしんべヱと合流した。
「きり丸!乱太郎!」
しんべヱは二人にがっちりと抱きついた。もう大泣きだ。
「よかったよぉ〜」
「しんべヱ、ごめんな」
「きり丸が無事ならいいよ!」
「ありがとな」
きり丸は笑ってお礼を言った。乱太郎もしんべヱも笑う。三人一緒。だから笑えるそう思う。
「帰ろうぜ!」
「走れば間に合うかな?」
「わからないけど、急ぐよ!」
乱太郎の声で三人は走り出した。