桔梗
しんべヱの心配も当たり前だ。もう少しで日が暮れる。それにここからまた奥に入ってしまっては迷子になる可能性が高い。
「しんべヱ、私探してくるよ」
「乱太郎、危ないよ!」
「でも、このままにもしておけないから。ただ、二人で行くのはもっと危険なんだ。だから、しんべヱはここで待っていてくれる?」
「でも!でも!」
しんべヱの不安もわかる。こんな所で一人は怖い。
「しんべヱには、これを持って待っててほしいんだ。後ね?」
手渡したのは、とても長い紐。そして。
「ぴい!」
「ふあ!」
「この子と一緒に待ってて?」
小さな鳥の子供だった。
「どこに持ってたの?」
「内緒。でも、これで怖くはないでしょ?」
「うん」
しんべヱはその子供を手に乗せた。
「紐は多分余裕があるから大丈夫だと思うけど、もしなくなりそうだったら引っ張って?」
「わかった」
乱太郎がどうしてこんなにも色々知っているかは知らない。でも、乱太郎の言う事は信じられる。そう思ったから。
「頼むね」
「気をつけてね」
「うん」
乱太郎は森の中に消えて行った。不安はある。けれど、大丈夫だと思える。
「ちょっとの間だけどよろしくね?」
「ぴい?」
一人ではないからこそ、しんべヱは笑っていられた。乱太郎は、きり丸を探しにスピードをあげた。そこに並走するようにイクとヤミがくる。
「イク、きり丸は?」
「ガウ」
教えられた場所は、本当に奥。
「ヤミ、先行して。何かあったら伝えて」
「キュウ!」
「あの小銭バカ!」
森の主がいる近くにいるきり丸。怒らせなければ問題はないが、多分奥まで入ったことに気が付かないきり丸は危ない。
「イク、全力疾走で!」
「がう!」
イクの背に掴まり、乱太郎はきり丸の元へと急いだ。
「ここどこだ?」
薬草を取ることに夢中だったきり丸は、はたと今自分のいる場所を見渡す。
「やべ、奥まで入ったんだ」
周りの景色が違う。薬草取りに夢中だったため、中に入りすぎたことに気が付かなかった。帰り道もわからない。
「やっちゃったよ…」
これで乱太郎に怒られ、しんべヱには泣かれることは確実だ。けれど、帰る道がわからない。
「どうしようかね」
よくこんなことはあったけれど、それは昔のこと。帰る所がなくて一人でいたとき。
けれど、今は帰る場所がある。待っていてくれる人がいる。乱太郎やしんべヱ、土井がいる。