桔梗
乱太郎が華乱と知ってから少しの時がたつ。
乱太郎は相変わらず、仕事をしていた。知る者たちは共通の小さな不安を持つようになった。それは。
「乱太郎、大丈夫かなぁ」
「心配だねぇ」
用具委員会の帰り道に話しているのは、喜三太としんべヱ。偶然に知ってしまった乱太郎の秘密。しんべヱは、唐突に。喜三太は偶然に。二人は知ってしまった。知ったとき、乱太郎は学園から姿を消そうとし、自分たちの記憶さえもなくそうとした。それがばれたときに両親と約束した事だと言って。知る者たちは皆で止めた。そして、思う。乱太郎を一人にさせてなるものかと。
「どうしたら、乱太郎に伝わるんだろうね」
「どうしたら伝わるかなあ」
危ない仕事を学園に入る前からしてきた乱太郎。怪我も多い。だが、その心配を余所に乱太郎はいつも笑う。人一倍優しい。だからこそなのか仲間を守る対象としているのに、自分は入っていない。誰もがそれを心配すること。
「僕ら、乱太郎だから心配なのにね」
「でも、乱太郎は大丈夫だよって笑うし」
そうなると誰もが何も言えなくなる。乱太郎が育った環境か、それとも性格か。
「ずっと、一緒にいられるならいいのに」
「だよね。そしたら乱太郎を守れるのに」
だがそれは今は叶わぬこと。力が足りない。
「喜三太」
「なあに?しんべヱ」
「強ければ、乱太郎といることができるかな?」
「多分ね。でも、乱太郎は僕らを強くなっても一緒には連れてはいってくれないと思うんだ」
「どうして、そう思うの?」
「いつか、自分の手を赤く染めることであっても実際の実習の後じゃないと乱太郎は連れていかないと思うの」
「乱太郎は優しいもんね」
それでも、乱太郎といたいと思うんだ。それが今乱太郎を華乱と知っている者の願いだろう。
「「強くなりたいね」」
乱太郎を思い、二人は青い空を見上げた。
「伏木蔵」
「庄左ヱ門?どうしたの」
「キミとさ、ちょっと話したくて」
「…乱太郎のことでしょ?」
「なんだ、わかってたんだ」
「僕らの共通点なんて乱太郎以外いないでしょ?」
薬を煎じながら、伏木蔵は笑った。
「どうぞ」
「ありがとう」
伏木蔵が入れてくれたお茶は薬膳茶のようで少し苦かった。
「それでお話は何?」
「乱太郎の怪我の事だよ」
怪我と聞いて、伏木蔵は顔をあげる。
「この頃、かすり傷でも少し多いと思わないか?」