桔梗
二人をだましてるとは思っていない。
こんな生き方を選んだのは、自分。
けれど、話せない事を持っていることは、少しだけ後ろめたかった。仕事から帰ってきたとき、きり丸としんべヱは抱きついてはいなかったが、傍らで眠っていた。
「風邪、ひちゃうぞ?」
苦笑しながら、乱太郎は二人に布団をかぶせる。
熟睡の二人は起きることはない。念のための自分特製の眠りの香はほんの少し焚いてはいるが。部屋にある結界をとき、人形を片付けた。香を焚いているのは、きり丸のため。きり丸は人の気配には敏感だということは、知っていた。最初の1ヶ月ぐらいは布団には眠れな
くて壁を背にして眠っていたから。戦争で両親を失った。1人で生きた日々は、それこそ、言葉には出来ない。
「あの頃は夜は抜け出せなかったもんなあ」
入学してから1ヶ月は任務はしていないから。それよりも、きり丸の精神的な不安を取り除く事に専念した。
しんべヱも同じくだ。親元から離れた不安。しんべヱだからこそ気が付く不協和音を取り除こうとして周りを落ち着かせようとする優しさ。
二人とも環境の違いに戸惑い、最初は眠りさえ浅かった。それを乱太郎特製の眠りの香となるべく一緒にいて安心させるようにしたのは乱太郎だった。
「まあ、よく眠っているね」
乱太郎はちょっと考えてから、きり丸の頭をさわる。そして、唱える。
「今日みた影はただの影。きり丸が気にしなくても大丈夫だからね」
それは簡単な暗示。記憶を操作することも可能だが、それはきり丸には力が強すぎた。薬でどうにかなるものでもない。
「これでいいか…」
乱太郎は、きり丸から手を離そうとした。
「…らんたろう?」
「ん? きりちゃん、起しちゃった?」
「ん…。だいじょうぶ」
まだ夢の中のきり丸は夢か現実かわかっていないらしい。
「まだ、時間があるから眠ってて大丈夫だよ」
「らんたろは?」
「私も寝るよ」
その声にしんべヱもごろごろと乱太郎にひっついてきた。
「えへへ〜。らんたろ〜」
きり丸とは反対の手をぎゅーっと握る。
「しんべヱ」
「あぐ」
「…食べないの」
「まぐまぐ」
「いいけどさ…」
しんべヱは、それは美味しそうに手を食べている。
「そんなに幸せそうに何を食べているのかな?」
「らん…たろ」
「ん? きりちゃん」
反対側のきり丸が乱太郎をひっぱる。
「寝よ…」