桔梗
「…忍者として生きるならば誰もが通る道だよ」
「僕も軽蔑なんかしないよ? だって風魔の里でよく見ていたんだもの。忍者、それもプロ忍者であればどんな仕事もこなす。それが忍びだよ?」
「ありがとう…。庄左エ門、喜三太」
二人の言葉に乱太郎は悲しく笑った。
見せたくなかった。それはきり丸やしんべヱにバレたときと同じ気持ちだ。まだ…こんな世界に入ってきてはほしくない。段階があるのだ。それを早く知りすぎても遅くてもダメなのだ。遠くからイクの声が聞こえた。
「…二人とも。見える範囲なら動いてもいいけど。出来れば私が戻るまでは動かないで。いい?」
「ああ」
「わかった!」
乱太郎の姿が消えた。本当にプロ忍なのだと思う。動きから何から見ることが確認することが出来ない。
「…庄左エ門」
「うん…」
この1週間ほどずっと乱太郎から離れなかったきり丸としんべヱ。乱太郎が怪我をしていて安静だったにしても、二人は休み時間になると必ず乱太郎のいる部屋に戻っていた。授業に遅れたとしても絶対に。
「きり丸としんべヱの行動の意味がやっとわかったね」
「乱太郎がいなくなることを怖がってたんだ」
乱太郎から見え隠れする感情。それは哀しみや寂しさ。二人はそんな乱太郎を離さないようにずっと側にいたのだ。
「喜三太」
「うん?」
「思っているより、驚いてないんだね」
「そうだねぇ。それは僕が風魔の里の事を知っているからだと思うよ」
場所は違うとはいえ、あそこも忍者の里。日常的に見ていた。だから、任務やその内容について何か思うことはなかった。
「僕は驚いたし、やっぱり怖くなったよ」
「それは、話の内容が?それとも乱太郎が?」
「正直いえば両方」
「普通はそんなものだと思うよ?僕だって、そうだったし」
それでも、慣れた。
「喜三太は、強いね」
「いつか通る道だもん。乱太郎はそれが早かっただけ」
「そうだな」
喜三太の言葉に頷く。怖い事は確か。けれど、乱太郎を嫌う厭う理由になどなりはしない。
「ねえ、庄左ヱ門。多分だけどさ」
「喜三太の言いたい事はわかるよ」
乱太郎の事だ。多分、消えようとしている。学園から、自分達から。
「絶対に阻止しないとね」
「ああ。後、きり丸としんべヱにも話さないと」
あの二人も必死なのだ。乱太郎を一人にしたくないと。二人が笑い、手をお互いにコツンと合わせる。