桔梗
「そうだ…ね。私が華乱だよ。風神の申し子・華乱。それが私のもう一つの名前であり姿」
「やっぱりそうなんだね」
「伏ちゃんはいつから気がついてたの?」
「…乱太郎がこの二・三ヵ月何かと怪我してたから。上手く隠してたけどね。僕、なんとなくそういうのわかっちゃったみたいで」
「そっか…。先生とか先輩には大丈夫だったんだけどな」
「僕、乱太郎の手当に必ずいたんだもん。それに乱太郎それ結構意図して来てなかった?」
「かも…。でも、無意識かな」
伏木蔵なら大丈夫だと無意識に思っていたのだろう。
「それは光栄と言ってもいいのかな?」
「それは伏ちゃんのご想像もお任せします」
微笑む乱太郎に伏木蔵は少しだけ不安が広がる。
「…乱太郎」
「何?」
「あのね? 僕以外に誰か知っている人はいるの?」
「きり丸としんべヱ。後、庄左エ門と喜三太だよ」
「見事には組なんだね」
「なんでかな。きり丸としんべヱはどうしようもなかったの。あそこで動かないと全員死んでいた。私が二人を守らなければ命はなかった」
「怪我をして帰ってきたときだね?」
「あれは…体力より精神的なものが強かったみたいでね」
「だから、寝込んだ時間が多かったんだ」
あのとき、新野の言葉により1週間乱太郎は布団から出ることは許されなかった。何人もお見舞いに来た。乱太郎は嬉しい分、少しの罪悪感と戦っていたのかもしれない。
「庄左エ門と喜三太は偶然だったんだよ。仕事途中でお使いから帰る途中の二人に遭遇した。…あそこは1年生だけでのお使いはやめてって学園長に華乱として言っていたんだけどね」
「忍務中に二人とあったの?」
「うん。ほっとけなかったの。死なせたくなかったの…」
学園の大切な友達だから。そこに残しておけば待っていたのは死だけ。そんなことが出来る訳もなかった。
「もう一つの姿を見せたとしても、守りたかったんだよ」
「わかってる。だって…乱太郎だもの」
本当に優しい乱太郎。そんな乱太郎が自分の手を染めていることに悲しさはあれどその姿を否定することなどはない。
「ねぇ、乱太郎」
「うん」
「乱太郎は、ここにいなきゃダメだよ」
「え…」
「乱太郎は乱太郎であるためにね。僕らから離れるなんてことしちゃダメなんだ」
「伏木蔵」
「キミの居場所はここ。だから、居ていいの」