桔梗
ぎゅーーーっときり丸はそこにいた乱太郎を抱きしめた。ずっとずっと会いたかったから。待っていることがここまで辛いなんて知らなかった。
「きり丸」
「乱太郎、乱太郎!!」
それしか言えなかった。会ったら言いたかった言葉がいっぱいあったはずだった。けれど、会ったらそれもどこかへ行ってしまった。ただ、会いたかった。あったら、存在を確かめるようにそれを抱きしめるしかできなかった。
「きりちゃん」
乱太郎を抱きしめていた手を緩めて、乱太郎を見る。
「ただいま」
「…おかえり。乱太郎」
そこに戻ってきた太陽であり月の存在の乱太郎が。
「よし。学園に戻ろうか? 私まだ先生達にも会ってないんだよね」
「…え?」
「それって」
しんべヱと喜三太が顔を上げる。
「ここに直接来たってことか?」
きり丸の言葉に乱太郎が頷く。
「だって、皆ここにいる気がして。そしたら、なんか学園より先にこっちに足がむいてたの」
「乱太郎らしい」
「そうだね」
庄左エ門と伏木蔵の言葉に乱太郎は不思議そうに首を傾ける。
「そう? でも、ちゃんと皆いたし。私の勘も捨てたもんじゃないね」
「それが普通に働けばもっといいのにね」
「伏ちゃん、それひどくない?」
「え、だってそれが乱太郎じゃない?」
「ええー」
「伏木蔵の勝ち」
「庄ちゃんまでひどい!」
乱太郎がいなければ始まらないこの空気。会話。やっと自分達の日常が戻ってきた。
「もう、皆いじわるだー」
「心配させたからだよ」
「しんべヱまでいうの?」
少しいじけはじめている乱太郎。その姿に皆ほっとする。
「いいよーだ。みんななんて知らないから!イク・ヤミ!」
乱太郎の声で出てきたのはイクとヤミ。
「学園まで連れてて!」
乱太郎はそういってイクに飛び乗った。
「乱太郎!」
「ずりぃ!」
「あ、まってよぉー」
「乱太郎、待ってよ!」
「あらら」
「べーだっ! 先にいくからねっ」
そういって、乱太郎が学園に向かう。それを追う五人。勿論、イクは本気では走ってはいない。ヤミもゆっくりと旋回している。
そう皆で帰るのだ。学園に。
「皆、早く!」
そこに帰る場所があるから。
乱太郎はとびっきりの笑顔で空に手をかざした。