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それは簡単な魔法

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ちらっと、肩を丸めて顔を伏せた状態から、上目遣い気味に僕を見る。超狭い玄関の為、不精して一段上の廊下から手を伸ばしてドアを開ける、この場所でしか見れない上からのアングルなのである。実を言うと、こうして少し僕を見上げる臨也の顔を、すごく気に入っているんだけど、それは秘密だ。
「それ・・・」
顔を指差されて、なんだろう、食べ物でもついてたかな?と首を傾げたら、ああもう、とくしゃりと前髪をかきあげた臨也が、早口に、
「俺のメガネ」
と言った。
おれのめがね。
「・・・ああ!忘れてた、かけっぱなしだった!」
そうだそうだ、好奇心に負けて、さっきかけたんだっけ。
「何、これ取り返しに来たの?」
「あっ、ちょっと、待って!」
外そうと手をかけた僕を止めて、臨也はポケットから携帯を取り出し、すぐさまパシャりと一枚撮影を試みた。
「・・・臨也クン?」
「や、だって貴重だよ!」
コレクションに追加!と興奮気味に言う。
ちなみに臨也は昔から、帝人のレアな姿をコレクションする、と言ってよく僕の写真を撮っている。多分、写真がすきなんだろう。そして気軽に撮れる対象が僕しかいないんだ。本当に友達少ないんかだら仕方ない。
「いい加減にさあ、写真くらい気軽に撮らせてくれる友達作れば?まあいいんだけどさあ」
言いながらメガネを外して、はい、と差し出したけれど、臨也はそれはいいや、と首を振った。受取拒否の構えだ。
「ブランド物なんでしょ?」
「手元にあるとかけたくなるし、それに、帝人似合うからあげる」
「いや。似合ってもかけないし」
「っていうかさ」
くしゃりと笑った臨也が、なんだかとても嬉しそうに言う。


「俺のを帝人がつけてるってのが気分いい」


あんまりあっさり言うものだから、僕は普通にその言葉を文字通り受け止めて、なにそれと笑った。
「そんな、彼女が俺のシャツ着てます所謂彼シャツです、みたいな言い方僕にしなくてもさー」
「・・・っ!?」
ガツン!
・・・あれ?
僕の言葉に、思いっきり携帯を取り落とした臨也が、口をパクパクさせて僕を凝視した。
「・・・?」
なんだろうと目で問いかけるが、臨也は勢い良く首を振って、廊下に落ちた携帯を拾い上げ、
「ち、ちがうからそんなんじゃないからぜったいにないからっ」
と、顔を伏せたまま一息で言い切って、そのままばたばたと右となりの自分の家へと逃げ込むように帰っていく。
「・・・え?臨也ぁ?」
声をかけたときには時既に遅く、バタン!と隣のドアが閉まった音にかき消された。えーっと、何が起きたの、かな?
「・・・ちょっとした冗談なのに・・・」
想像して照れてしまったのだろうか、見かけによらず初心なやつだ。っていうかそういう妄想は彼女ができてからやれよと思う。
ワケがわからないまま、とりあえず玄関の扉を閉める。手元に残ったのは臨也の銀フレーム。


俺のを帝人がつけてるってのが気分いい?



「・・・ふーん」
今度、僕のお古の帽子でも臨也にあげようかな。臨也はあんまり青とか似合わないんだけど、でも、そのいい気分って言うの、ちょっと味わってみたい気もするし。
あれだけ冷たかったフレームの感触が、もう体温と同じだけ温かくなっているのに気づいて僕は小さく笑う。



こんな風にして僕に溶け込む臨也の存在を、僕は決して嫌いじゃない。
そして多分、似合わないと分かっている青の帽子を、それでもぎこちなくかぶってみせるであろう幼馴染の姿は、なんだかとても愛しかった。


作品名:それは簡単な魔法 作家名:夏野