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それは簡単な魔法

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竜ヶ峰帝人の場合







「あ、これ・・・」
思わず、持ってきてしまったようだ。鞄の中、筆箱の上にのっていた銀フレームのメガネ。
僕はそれを取り出して、握り締めたせいで少しだけ歪んだフレームを広げた。度の入っていないレンズには僕の指紋がべったりとくっついている。
とりあえずティッシュでそれを拭いてみたけれど、やっぱりフレームは曲がったままで、無理やりなおすと折れそうで怖いのでやめておいた。良く見ると、それなりにブランド品みたいで、臨也の小物使いのセンスの良さを垣間見る。
ファッションセンスは、相変わらず黒一色で、皆無だけどね。
僕と臨也は所謂幼馴染と言うやつで、性格に多大な問題がある臨也が唯一友人といえる相手が僕・・・なのだと思う。物心ついたときから友達だったし、多分これからも縁は続いていくはずだ。臨也がふらふらっと変な方向に行かない限りは。いや多分、僕はそうなったら臨也に説教するという名目で、また構うんだろうけど。
臨也は昔から、どこか放って置けない雰囲気があって、僕はどうも臨也に甘かった。自覚がある。甘いんだ僕は。
小学校のころなんかは、帝人帝人って向こうが僕にべったりだったんだけど、中学に入って恋だのなんだのって話が身近になってくると、臨也はとんでもなく女の子たちにもてた。まああれだけ顔が綺麗じゃ仕方ないとは思う。けど、恋って顔でするものじゃないよね。案の定臨也はかっこいいから好きですとか言ってくる女子をばっさばっさと切って捨てて、おかげで男子からの株が多少上がったり、女子にはクールで素敵!とさらに燃え上がられたりと忙しく、まあ当然のように逆恨みやなんかもあったりして、ずいぶん忙しくしていたみたいだ。
僕はそういう話には本当に疎いから、あとで友達に聞いたくらいのことしか知らない。実は臨也が前より遊んでくれなくなったのはちょっと寂しかったりしたんだけど、それでも臨也が誰よりも優先するのは変わらず僕だったから、もてる男は大変だなあって思うくらいで済ませておいた。
「・・・うーん、もしかして距離、とられてたのかなあ」
今更ながら過去を振り返ってそんなことを思う。中学のときと小学校のときと比べてみると、圧倒的に、臨也からの接触が減っていたことに、たった今、気づいた。
中学生なんて思春期真っ盛りだし、べたべた馴れ合うのが嫌だったんだろうか。でもそれなら、遊びに行こうと誘ったときにあんなに嬉しそうにしないよなあ。
良くわかんないな、と結論をつけて、僕は臨也のメガネを目の高さまであげてみた。少し考えて、こっそりとそれをかけてみる。皮膚に当たるフレームのひやりとした感覚が新鮮だ。出かける前くらいにしか覗き込んだことがない鏡に向かって立てば、皆に童顔童顔といわれる自分の顔が、銀フレームの大人っぽさに引き摺られて年相応に見えるような気がした。
すごいなメガネマジック。臨也のときもそうだけど、メガネっていうのは魔法のアイテムだ。印象がかなり違ってくる。
思い出すのはあの日だ。高校の入学式の日。
会場で待ち合わせて、一緒に式場となる体育館に行くことにしていた臨也が、待ち合わせにきたとき、僕は一瞬誰だか分からなかった。だって、綺麗な銀フレームのメガネをかけていたから、なんかもう別人みたいで。声をかけられて臨也だと分かったものの、臨也は視力がいいことを知っていた僕は、何でメガネ!?と静かにパニックになったものだ。
しげしげと見詰めれば、臨也はほんの少しだけ頬を赤くして、
「何、変?」
と、気にするようなそぶりを見せた。
「ううん、わりと似合うね」
そこで変だとでも言えば、すぐにメガネを地面に叩きつけて踏み潰しでもしそうな空気だったから、僕は正しく空気を読んだ。にっこりと笑って似合うといってやれば、臨也はそっか、と複雑そうな表情を浮かべて、それでも安堵したように息をつく。実際、その細身の銀フレームは、臨也にすごく似合っているのだ。それこそ魔法でも使って臨也に一番似合うフレームを選び取ったみたいに。
けれども、似合っては、いるのだけれども。
僕は非常に不満だった。なぜって、臨也の目が良く見えない。ただでさえ読み辛い臨也の感情を、僕はその目に頼って読み取ってきたところが合ったから、幼馴染で親友である僕としては危機感を抱かざるをえなかったのだ。それに、臨也の目は綺麗な色をしているから、それを見れないのはとても残念だった。
目を見ようとしても、そのレンズに阻まれて、光の照り返しが拒絶する。何だよ防御魔法かよ。おまけにメガネをかけた臨也は、ただでさえ大人びた外見なのにさらに落ち着き払って見せて、なんだか臨也が遠くにいってしまったような気さえした。ストイック、とか臨也は言ったけど、そうじゃない。なんていうか・・・綺麗な人形みたいに、冷たく感じたんだ。そしてそう思ったのは僕だけではなかったらしい。
中学であれほどモテて苦労をしたというのに、高校では臨也は上手くそういうごたごたを避けていた。多分、話しかけづらくなったからだろう。メガネをかけ始めた理由はこれかと、一時期は本気で思ったくらいだ。それくらい見事な変身っぷりだった。でもその魔法には、僕的には、フラストレーションがたまる一方だった。
「見たくないものがある、か」
今日、臨也はそんなことを言った。
それが何かと尋ねたところで、答えてくれることはないだろうから聞かない。久しぶりに見た臨也の目は、相変わらず綺麗な色で、僕はそれに満足した。無理やり奪ってきちゃったのは悪かったかなとも思うけど、多分、あそこまで言ったらもう臨也はメガネをかけようなんて思わないだろう。なんだかんだで、臨也も僕には甘いんだから。むしろ劇甘だ。
って言うか、今更だけど、かなり恥ずかしいこと言っちゃったな。
僕だけ見てろなんて、その時は思わず口をついてしまったけれど、よくよく考えると男が男に言う台詞じゃない。まあ、臨也のことだから軽く流してくれると信じたいけど。
一人きりの部屋で、そんなことを考えていると突然チャイムが鳴り響いた。わ、と驚きの声を思わずあげてしまったが、時計を見ればまだ夜8時、まだまだ来客が来たとしても非常識ではない時間だ。
臨也と一緒に進学する為に借りたアパートは、両親がそのほうが安心するからという理由で、臨也の隣の部屋だったりした。引越しのときそれをはじめて知って、だったら一緒に住めばよかったねと臨也に言ったら、ものすごい勢いで「無理!」と拒否られたけど。冗談の通じないやつだ。
「はーい、ちょっと待って!」
ドアに向かって叫んでから、ばたばたと玄関に近づく。鍵を開けて扉を勢い良く外に開くと、やっぱり憮然とした顔で臨也が立っていた。
「帝人さあ、だから、ドア開ける前にちゃんと確認・・・」
4月から何度も言われた小言を言おうとした臨也が、そこで声を区切り、ついでにぽかんと口を開けた後、少しだけ頬を染める。
「臨也?心配しなくても臨也のチャイムの押し方クセがあるからすぐ分かるんだよ、って何度も言ってるでしょ」
「あ、いや、うん、あの・・・」
とりあえず小言に反論して見せたなら、臨也は何事か言いづらそうに口ごもって、目を伏せた。
「あー、のさ」
作品名:それは簡単な魔法 作家名:夏野