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信頼

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 やましい気持ちは、あった。それでも、俺のスキンシップや対人がイギリスのそれよりも過剰であるのは互いに分かっていることだし、これくらいなら看過されてもいいだろうと高をくくっていたのも事実だった。いつものことだ、イギリスはきっと何も言わないと、信頼などというにはあまりにも身勝手なことを考えていた。
 ―――そう、まさか、イギリスがこんなかたちで反抗するなどと、俺は欠片も思っていなかったのだ。御世辞にも楽しいとは言えない現場を見た後も、イギリスはいつもどおりの態度を崩さなかった。いっそ愛想よく彼女に微笑んでみせ、何ごともなかったかのように俺と店を出た。その後だって、まるで普段と違ったところはなかった。だから、俺は愚かにも、何だ、と拍子抜けしたのだ。
 けれど。

「なあ、フランス。そんな理由なんて、ないだろ?」

 この言葉は裏返し、まさかイギリスは理由の不在を信じてなどいない。理由は、根拠はある。イギリスを不快にさせる、それだけのことをしたのは間違いなく俺だ。
 けれど、俺はそれを分かっていながら、今まで何もしなかった。甘く見ていた。イギリスはそれが気に食わないのだ。だからこそ、こうして俺を試す。理由をちらつかせ、俺がどう出るかをじっと観察している。
 さあ、どうする、と思ったところで何か簡単に案が浮かぶでもない。俺は背を伝う汗を意識する。動揺もいい加減顔に出ている気がした。大体、体を押さえこまれるようなこの状況がよくない。こうなって初めて、普段俺がいかにイギリスに対して好きにしているかを意識する。イギリスは元来スキンシップがそう得意ではないが、俺はあまり構わずに触れ、距離を詰めてきた。……そうされることによって、彼がどう感じるかということを意識したことは、正直なところあまりなかった。恐らく、今の俺のような気持ちになっていたのだろう。
 俺の顔を覗き込んでいたイギリスは、ふと目線をそらすと、手に持ったままの耳かきを部屋のあかりにかざして見た。黒く光る漆塗りのそれは、先端に小さな装飾がついていた。簪のようなものをイメージするデザインは確かに美しい。それでも、今この状態で、単に道具としての美醜を云々するような余裕はあまりなかった。
 しばらく飾りや耳かき自身を光にあてて、様々な角度から眺めていたイギリスは、また緩やかに俺を見やると、殊更ゆっくりと、言い聞かせるように囁いた。「こんなに綺麗で、美しいもので、愛情を確かめられるなんて、素晴らしいと思わないか?」なあ、そう思うだろ?
 ―――イギリスは笑っていた。けれど、俺を見下ろす瞳は、どこか憂うような色を含んでいた。それに気付いた瞬間、俺は思わず手を伸ばしてイギリスの華奢な手首を掴んでいた。びくりと、頭の下で足が揺れる。
 「……ああ、」久しぶりに出した声は情けなくも嗄れていた。乾いてひりつくような喉を叱咤して何とか言葉を吐き出す。「ああ、これ以上ないくらい、素敵だよ」イギリスの手からするりと指を解いて、俺は腕を腹の上へ乗せる。そうして、瞬きもせず俺を見つめるイギリスに、ゆっくりと告げる。

「怖くない。……だから、イギリスの好きにしていいよ」

 今更謝ることは出来なかった。はっきりとした喧嘩になっている訳ではなくて、今唐突に謝罪したところで、その言葉の空虚さが際立つ気もした。それに、イギリスがこんな回りくどい方法をとってきたことは、正面切って喧嘩をすることを回避した結果にも思えた。喧嘩をしようと思えば、あの現場を見たときから既に、たくさんの機会は転がっていたのだから。
 けれど、俺はイギリスを傷付けた。随分身勝手に、間違った信用を押し付けて。それは間違いのない事実で、決して流してはいけないものだった。
 だから、と俺は身を投げ出す。今ここで俺がイギリスの提案に乗って、全てを投げ出すことは、子が親に身を任せるような、幸福な誰かが恋人に甘えるような、そんな確かな信頼に変わると思うから。
 じっと見つめたイギリスは、俺の本心を探るように、しばらく口を開かなかった。俺も唯、彼の反応を静かに待つ。
 ―――イギリスがこうして行動を起こさないと、自分では何もしないのだから、この現状だって本当にろくでもなく情けない。それは痛い程感じていた。………だからこそ。

「最初からそう言えばいいんだよ、ばーか」

 困ったように眉を寄せて笑うイギリスの顔を見て、自分でも意外な程、安堵した。



(100907/仏英)
作品名:信頼 作家名:はしま