二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

夢現

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
新学期、青葉は制服に袖を通して家を出た。
来良学園は服装に関して自由だが、少し着崩すくらいでそのまま制服を着用している生徒が多い。
久しぶりに歩く通学路も、来良学園の制服であふれかえっていた。

『ねっむ・・・』

視線を下に向けたまま、大きくあくびをひとつ。
それから、今日の予定について考える。
新学期初日だから、始業式とHRだけで簡単に終わるだろう。
委員会が長引いたとしても、正午過ぎには学校を出れそうだ。

『帝人先輩を誘って昼ご飯とかどうだろう』

そんな風に考える。
途中、数人のクラスメイトが「おっす、黒沼ー」と声をかけ、青葉のことを自転車で追い抜いていく。
顔を上げ、その背中に向かって「おはよう」と返す時、青葉は彼を見つけた。

『あ・・・』

イヤホンをして、何か音楽を聴きながら、少し俯き気味に歩く。
制服をきっちり着込んだその背中と歩き方は、竜ヶ峰帝人に間違いなかった。
後ろを離れて歩く青葉には気づいていないようで、ただ黙々と歩いている。
早足になれば追いつけそうだった。
声をかけるついでに昼ご飯にも誘ってみようと決め、カバンをかけ直して歩を早める。
並んで歩く女子生徒を追い抜くと、帝人まであと5メートルもない。
少し大きな声で呼べば、イヤホン越しにでも気づいてもらえそうだ。
そう思い、帝人を呼ぼうとした時だった。

「みかどせんぱ」
「帝人!」

帝人を挟んで、青葉とは反対側―帝人の進む先から彼を呼ぶ声がする。
ひどく大きな声で、青葉が帝人を呼ぶ声をあっさりとかき消してしまう。
その声はイヤホン越しにも届いたようで、帝人はぴたりと歩みを止めた。
顔を上げ、帝人が校門の脇に立つ声の主を確認する。
動揺しているのが背中を見ただけでもわかった。

「え・・・」

小さく、ため息をつくように口からこぼれたのは「現状を理解できない」、「どうして?」というような一音。
イヤホンを外し、その場で立ち尽くす帝人をからかうように、声の主は続けた。

「なんだよ、再会できたのが嬉しくて感動してんのか?『帝人カンゲキッ☆』って感じかぁ?」

その言葉に、帝人はショルダーバッグのストラップを、ちょうど体の正面、臍のあたりで両手でギュッと握りしめた。
そして、一呼吸おいて駆け出す。
彼の一番の友人、紀田正臣の元へと。

「正臣っ」

帝人はそのまま、正臣を押し倒してしまいそうな勢いで駆け寄り抱きつく。
正臣の、着崩した制服の背中をしっかりと掴んで、「逃がさない」とでも言うように強く強く。
それには正臣も驚いたようで、目を丸くして帝人の身体を受け止めた。

「なんだよ帝人、熱烈大歓迎だなぁ。離れてる間に俺の大切さを実感したんだろ?もう愛だな、愛!ラブアンドピース☆愛は世界を救うし、俺のことも帝人のこともすべからく救ってくれるってわけだ!」
「意味わかんない」

スラスラと淀みなく話す正臣に、帝人は抱きついたまま「意味がわからない」とポツリと告げる。
正臣は正臣で一瞬ショックを受けたような顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「ただいま、帝人」
「・・・おかえり」

正臣は、自分よりも少し背の低い帝人の頭に手をやると、ポンと軽くたたいた。
帝人は普段よくする困ったような笑顔を、泣き笑いの形に崩した。

「みかどせんぱい」

青葉は、そんな二人を立ち尽くして見ていた。
無意識に呼んだ帝人の名前は、かすれ、届かないまま空気に溶けた。

『どうして紀田正臣がここにいるんだ』

混乱しながらも考える。
自分が高校に入る前の春、法螺田という男が黄巾賊のトップに立ち、自分の良いように動かそうとした。
その事件が解決した後、正臣は姿を消していたはずだ。

「紀田くん・・・?」

声のしたほうに顔を向けてみると、杏里が隣に立っていた。
驚いたような表情で、帝人と正臣のことを見ている。

「杏里先輩・・・」

呼んでみたが反応はなく、まるで青葉の声が聞こえていないようだ。
どうしたらいいのかわからない、といった風に見える。
そんな杏里に気づいた正臣がこちらを見て笑い、手を振った。

「杏里!」

正臣に呼ばれ、杏里が一瞬びくりと肩を揺らす。
しかしすぐに笑顔を見せ、二人の元へと一歩踏み出した。

「紀田くん!」

青葉を置いて、駆けて行こうとする杏里。
それを笑って待つ正臣と、杏里が来たことに驚いて慌てて正臣から離れようとする帝人。
そんな光景を目にした途端、言いようもない不安が青葉の胸に押し寄せた。

「杏里先輩、待って・・・!!」

青葉の傍らを通る杏里の腕を咄嗟に掴む。
しかし、かなりの力で掴んだはずの杏里の腕は、青葉の右手をするりと抜けていってしまう。
当の杏里はまるで気づかなかったようで、すぐに帝人と正臣の隣に並んだ。

「なんで・・・」

青葉は呟く。
訳がわからない。
どうして紀田正臣がここにいるんだ。
どうして杏里は青葉に気づかずに駆けて行ってしまったんだ。
どうして―――――右手にあったはずの、帝人からもらった傷跡が消えているんだ。

「どうして?」

帝人をブルースクウェアのリーダーに、と。
そう頼み、契約をしたときにボールペンで刺された右の掌。
そこには今でも、傷跡が残っていたはずだ。
あいた穴をふさぐために、皮膚が引き攣れてしまった傷跡が。

「おかえりなさい」
「ただいま」

混乱する青葉を余所に、三人は言葉を交わし、笑い合っている。
その笑い声が青葉の不安を煽る。
それをかき消すように青葉は叫んだ。

「帝人先輩!!」

帝人は今日、一度も青葉のほうを向いていない。
それが余計に青葉を不安にさせた。

『お願いだからこっちを向いて』

そう願いながら名前を呼ぶ。
長い時間一緒に過ごすうち、呼び慣れた名前を何度も。

「帝人先輩!帝人先輩!!」

けれど、いくら呼んでも帝人はこちらを振り返らない。
ちらりと見える横顔は傍らに立つ二人に対するもので、青葉には向けられない。
帝人が正臣を待っていたことを、青葉は知っている。
ブルースクウェアのリーダーを引き受けたのも、ああして三人で再び笑える場所を作るためだった。

その『三人』に、青葉は含まれていない。

「みかどせんぱいっ!」

息が上がる。
三人の声が聞こえなくなる。
視界が滲んで、帝人の姿もぼやけ見えなくなる。
それでも青葉は帝人の名前を呼び続けた。

「みかど・・・せんぱい・・・」

自分の声もかすれ、だんだんと意識が遠のいていく。
どんどんと視界が狭くなっていき、本当に何も見えなくなってしまう直前―――
僅かに帝人がこちらを振り向いたような気がした。



作品名:夢現 作家名:七貴