幸せの足音
目覚めて随分時が経ってから、ゆっくりと体を起こす。
胸に手を置き、少し思案する。
生まれつき身体の弱いユズハは、毎朝目が覚めてから、自分の体調を感じていた。
今日は軽い、今日は重い、今日は苦しい、と。
普通の人ならば、毎朝何も感じず、当たり前のように目覚め、当たり前のように一日の行動を始めるが、ユズハはそんな『当たり前の事』が出来なかった。
(今日は、体が軽いですね……)
この分なら、日中はカミュやアルルゥと一緒に遊べそうだと、うっとりと微笑む。
寝台横の机を探り、櫛を手に取ると、部屋の外から控えめに声をかけられた。
「ユズハ殿、起きておられますか?」
「はい」
返事をすると、そっと扉が開かれる。
慎重に、しかし無駄のない足運びでトウカが部屋に入って来た。
「オボロ殿に、今朝は御加減が良さそうだと聞いて、迎えに参りました」
聞く者全てが背筋を伸ばしてしまいそうな、トウカの声。
実直な性格が、足音だけではなく声にまで表れているようだ。
「ありがとうございます」
最近は皇城内にも大分慣れたが、一人で外を歩くのには少し不安がある。
そんな時、迎えに来てくれる人がいる事の、なんと嬉しいことか。
身体の軽い日は部屋の外に出られる。
外に出られると言う事は、家族達と朝夕の食事をとることが出来る、という事。
この楽しみを知ってからは、起き上がれない日の1人でとる食事の寂しいこと、悲しいこと。周りにアルルゥやカミュが居てくれても、やはり皆と一緒の方が楽しい。
我侭になってしまった、と反省するが、いつもそうありたいと願う心は止められなかった。
「せっかく迎えに来てくださったのに……少し待って下さいますか?
髪が、寝乱れていますので……」