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幸せの足音

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「これ、おいしい」

 アルルゥの声と共に、微かにユズハの持つ皿が重くなる。

「ユズっち、こっちも美味しいよ」

 と、こちらはカミュ。

 ともに気に入ったおかずを取り、ユズハのお皿に乗せて行く。

 美味しい食事をお腹いっぱい食べて、元気になって欲しい二人の気持ちだ。

 ユズハのため、というには少しばかり量が多い気がするのは……その皿が安全圏だからだろう。食べきれない程のおかずを盛って置けば、残りをゆっくりと食べられる。飢えた2匹の獣も、ユズハの皿にだけは手を出せない。
 そんな意味もあるかもしれないが、とりあえず二人の素直な気持ちである事に、嘘偽りはない。
 あれもこれも、と皿におかずをのせられているユズハの後ろに、しなやかな足音が回り込んできた。

「これも、美味しいですわよ」

 カルラの声とともに、一気に重量の増えるお皿。

「きゃっほぅ! カルラお姉ちゃん、ふとっぱら~」

「そんな事ありませんわ。どうせ余り物ですもの」

 歓声をあげるアルルゥに、片手をあげて答えるカルラ。
 その背に殺気が突き刺さる。

「ちょっと待て、何故某の皿から持っていくのだ!?」

 いったい何を乗せたのか、目の見えないユズハには想像できなかったが、声から察するにトウカのおかずだったらしい。

「あら? どうせ残す物ではなくて?」

「誰が残すものか! それは……その焼き魚は某の好物ゆえ、最後の楽しみにと……」

「あら。そうでしたの。それは悪い事をいたしましたわ」

 言葉とは上腹に、少しも悪びれた様子のないカルラ。

「ご・め・ん・な・さ・い? ですわね」

 明らかにからかいの色が浮かぶ、謝罪の言葉。

「そ、そこになおれ~っ!」

 エヴェンクルガの武人は、いとも容易くカルラに弄ばれ、今にも刀に手をかけそうな勢いで立ちあがった。

「トウカさま……」

 ユズハが小さな声で呼びかけるが、興奮状態のトウカの耳には届かない。

「トウカさま、……ハイ」

 っと焼き魚の身をほぐし、箸でつまむ。

「あ~ん、してください」

 いまいち状況のわからないまま、トウカの声のする方向に箸を差し出すユズハ。
 その顔には、汚れを知らない微笑みが浮かんでいた。
作品名:幸せの足音 作家名:なしえ