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幸せの足音

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「今日、アルちゃんが読んでくれたお話……とても楽しかったです」

 夕食が終り、寝台に横になっているユズハが、今日一日の『報告』をオボロにしている。

 何をして過ごしたか、どんな話しを聞いたか……他愛のない出来事。
 それら一つひとつをオボロに聞かせていた。

「そうか……よかったな」

「……ハイ」

 その時の情況を思い出しているのだろう、頬を桜色に染めて、うっとりと微笑んでいる。

 近頃のユズハは、ますます笑うようになった。

 ハクオロと出会い、エルルゥとアルルゥという友ができた。皇城に来てからはカミュと大勢の姉と兄に囲まれ、毎日を慎ましやかに生きている。普段見落としがちな事から、ささやかな楽しみや喜びを見つけ、本当に幸せそうに微笑む。


 死と隣り合わせの、どこか儚い微笑み。


 それでも、以前より格段に輝く、命の微笑み。

「今日は疲れただろ。もう休め」

 ユズハの肩まで布団をかけ、頭を撫でる。

「ハイ。……明日の朝こそは、お兄さまに『おはようございます』って言いたいです」

 なんのことだ? っと首を傾げるオボロに、ユズハはうっとりと目を閉じた。

「毎朝ユズハの様子を見に来てくれているのに、最近ユズハは眠っていて……お兄さまに挨拶が言えていません……」

「そんな事を気にしていたのか……」

 申し訳なさそうに眉をよせるユズハに、優しく微笑む。

 朝起きられないのは、昼間遊んでいて、疲れているから。
 人より疲れやすいユズハが、朝までその疲れを引きずっているからだ。
 でも、それは……心地よい疲れ。
 体調を崩して咳などで体力を使うのとは、まったく違った健康的な疲労。

 よほど疲れていたのだろう。

 会話が途切れると、すぐにユズハの寝息が聞こえ始めた。

 規則正しい小さな寝息を確認すると、音をたてないように、オボロはそっと腰をあげる。

「おやすみ、ユズハ」

 ユズハは今、間違いなく幸せだ。

 そして、それは……オボロ自身をも幸せな気持ちにさせていた。
作品名:幸せの足音 作家名:なしえ