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幸せの足音

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 ベナウィが早足に立ち去ってから……半刻も過ぎただろうか。

 よく似た2つの足音が聞こえる。

 自分では見えないのでなんとも言えないが、二人は足音だけではなく、姿もよく似ているらしい。
 昔からオボロの側にいる双児、ドリィとグラァ。

 珍しい事は重なる物だ。

 いつも一緒にいるはずの、オボロの足音が聞こえない。

「失礼します」

「ユズハ様、夕食のお迎えに来ました」

 部屋に入って来るドリィとグラァ。
 やはり、オボロの気配はない。

「ハイ。ありがとうございます」

 ベナウィに注意されたばかりなので、慎重に机の上に広げた道具を片付ける。
 引き出しを閉め、そっと立ち上がると……

「ユズハ様!」

 ふらりとよろけたユズハを、咄嗟にドリィが支える。

「ありがとうございます、ドリィ」

 見えないはずの目で、しっかりと自分の身体を支えるドリィの目を見つめる。

「大丈夫ですか? ユズハ様」

「ハイ。大丈夫です、グラァ」

 倒れそうになった姿勢を立て直すため、ドリィの補助に回るグラァにも目を向け、礼を述べる。

 ユズハは二人を間違えない。

 どんなに姿形が似ていようとも、目の見えないユズハには関係のない事だったし、ユズハにとって、二人は完全に別の人格だった。
 混同されがちな双児だからこそ、二人を見分けられる人物が特別に好きだと思えた。

 外見的な特徴である袴の色を変えても、オボロは二人を見分ける。
 ユズハにいたっては、姿も見えないのに二人を感じわける。

 ドリィとグラァにとって、ユズハは『若様の大切な妹君』という以上に大きな意味を持っていた。

「そういえば、お兄さまは……?」

 その後、無事ベナウィに捕まったらしい。
作品名:幸せの足音 作家名:なしえ