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巫女さんなシズちゃんと帝人くんの話

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改札を抜けてすぐにそうとわかった。
目に見えて大気が澱んでいる。
確かに降り注いでいるはずの太陽の熱は少しも大地を暖めようとしない。
大気に至っては皮膚が裂けそうなほど乾いているのに腐った水草のようにねばつく空気が街を圧迫している。

久しぶりにこの街に降り立った青年は一瞬だけばつの悪い表情を浮かべた。
なるほど、知己の闇医者が「いますぐ来い。自分の目で見ろ」と珍しく余裕もなく自分を呼びつけた理由がわかった。
つまり、自分はとんでもないことをやらかしてしまったわけだ。
「あの単細胞バカがそれほど大事な位置にいたなんて信じられないんだけどね…」
軽くため息をついてポケットから携帯を取り出す。
数コールの後まくしたてる声が響き渡る。反射的に耳から離した。
「遅いよ臨也!もうわかっただろ、早く静雄を元に戻してよ!」
「うーん、俺としてはもうちょっと遊びたかったな」
「今でも十分やばいよ!ああもうほんとに君ってやつは最低だ」
「ひっどいな。だってあの暴力バカが…どう考えてもギャグだよね。
 どこかのネット小説より酷い設定だよね」
「…それは私だって思うけど。とにかく家に来てよ。話はそれからしよう」

じゃあ、という短い音と共にぷつん、と通話が切れる。
しばらく携帯の画面を見つめていた青年はやっぱりこのまま帰ろうかな、と
思い始めていた。
何故なら彼は火種や混乱をばら撒いて目標周辺を阿鼻叫喚の渦に叩きこむのは
大層好きなのだが、
台風一過の被災地の掃除をするのは非常に面倒くさがる性分の持ち主だったからだ。
(俺としては一回ぐちゃぐちゃにしちゃったものを戻すのは美学に反するんだよなあ)
などと新羅がきいたら「君の秋の空のような美学なんて心底どうでもいい」と切って捨てそうなことを
考えながらくるりと踵を返して青年は元来た駅へ向かって歩き始めた。

と、その右足に、黒い影が絡みついた。
「……ッ!」
ばっと振り向けばそこには漆黒の首なしライダーこと、
闇医者の同居人セルティが立っている。
こころなしか睨まれているように思えた。
「やあ、久しぶりだね。元気だった?」
「……」
今しがた逃亡を図ろうとしていた人間の言葉と思えないほど
爽やかに微笑みかけられて目に見えてライダースーツの細い肩が落とされた。
彼女にきける口があればハァアア、と深いため息をつきそうな雰囲気のまま
素早く打ち込んだPDAを眼前に掲げられる。
『新羅から絶対逃がすなと言われているんだ。
大人しく来てもらおう。というか自分の不始末くらい自分で処理をしろ』
はいはい、と年甲斐もなく唇をとがらせる青年にますます肩を落とすセルティ。
「でさー、ちょっと聞きたいんだけど」
『?』
「君のバイクに二ケツすんの?なんかやだなーソレ」
『…お望みならシューターの後ろから縄でつないだまま走ってやるが』
「ははっ、冗談だよ」
よいしょ、と勝手に黒バイクの後部に跨る男に
不服気にシューターが嘶いた。
周囲を行きかう人々は不意に響いた馬の声に一瞬戸惑うような
空気を生み、そして霧散させていく。
都会の人間は他者に無関心というが、
セルティにとってそれは時にありがたいものだった。


即席で影のヘルメットを作るとそれを後ろの男に放り投げて
かぶるのを確認しないまま漆黒のデュラハンはバイクを走らせた。