スーパーノヴァ
「……あ、長門君、ああいいんだ、食べながら聞いてくれ、たいした話でもないから」
フォークをくるくる回す手を止めてこちらをじっと見てくるものだから落ち着かない。彼女が僕に対するリアクションの中でダントツに多いのが、「じっと見つめる」であって、僕はそれが好きだけども最も緊張することでもあった。
「今度、海に行かないかと思って……遠くへ散歩に行く、くらいのつもりで居てくれるとありがたいんだけど……海水浴場じゃないところでさ、本を読むのもいいんじゃないかな、と」
「海へ本を読みに行く……」
「そう。というのも、僕が泳げないからなんだけど……」
言わないでおこうと思いながらも、隠せずに話してしまうと、彼女は今度こそカトラリーを音もさせずにテーブルにおき、
「デート」
と一言、とても真剣な声で(というのは僕の解釈だ)言った。恥ずかしいから、それを意識させたくなかったのに、長門君はどうやら男女が付き合ううちにすることを無表情のまま楽しんでいるらしい、と、ここでようやく気付いた。
「うん、まあ、デート、です……嫌でなければ、どうかな」
「今度とはいつ? 明日?」
「明日がいいなら、そうしようか」
こくりと頷いた彼女は満足げにカトラリーを手にとって、食事を再開する。彼女は初回の昼ごはんを除いて、食事だけは割り勘にしたがったので(どうやら今でも付き合いのある、SOS団の連中にそうアドバイスをもらったらしい)、僕は会計に関して恐怖することは少なくなったが、明日のデート費用はもちたいな、と思いながらスパゲッティがあれよあれよというまに消えていくのを見守った。
「楽しみだな、明日」
独り言をもらすと、彼女は昔のライダーものに出てくる怪人のようにスパゲティを少し口の端っこに垂らしたまま、頷いた。
ちょっとずれた僕の彼女は、大変に可愛らしい。