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その水色のビンは きみに持っていてほしいんだ

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「いえ。食べます」
「冗談じゃないぞ。君がここで倒れたら、うちと戦争だ」
「いえ、大丈夫です」
「お、おい!」あむり、と一口で手のそれを食べ、これで最後だと、またとり出したそれに、こちらが止める間もなく、かじりついた。
「ば、馬鹿が!」
駆け寄って、それを押さえ込もうとしたら、逆に腕をとられた。
「―あたり、です」
「・・・・・」
思いのほか力強いせいで、こちらの腕は動かせなかった。若者の口には、食べかけのクッキーと、なにやら白い・・・
「おみくじ」口からそれをはなすと、クッキーの中から、その丸まった紙を出す。油のしみこんだそれには、見覚えのある字。

『  結婚してください!あなたの老後は、わたしがみるわ!お金は全部奥さんにあげちゃって、二人で貧しく、でも、楽しく生きるの。   とても、愛してる  これからも、ずっと    愛しています  』

「・・・な・・」
「―彼女、あなたのことを本当に愛してたんですね」
「・・し、芝居だ」これも。
 手首をまだ力強く掴まれていた。見下ろした若者が、すう、と息を整える音がした。
「―先日、うちの、一人が、仕事で使ってた安ホテルでね、でかい荷物を持って入ってくる男を、見かけたんです。そうしたら、しばらくして、どこかの部屋で銃声がした。本来、そういうことに首をつっこむ男じゃないんですが、先ほどの荷物を持ち込んだ男に見覚えがあって、そのうえ基本的に常識的な男なもんで、見に行ったんですよ」
上着に手をいれた若者は、取り出した紙を、こちらへ見せた。
 血を流す、男と女が、裸で、ベッドの上。
「―男にはまだ息があって、呪いの言葉と名前を告げた。そのときに、うちのやつも思い出したそうです。荷物を持ち込んだのは、あなたの、腹心の部下だ」
「なにを」
「お気の毒ですが、奥様と男が共謀したようですね。あなたの体調不良は、奥様がいれるお茶のせいでしょう。ご存知ないかと思われますが、あなたは体調の悪化で、じきに引退だという話が流れています」
「そ、そんなわけ」
「うちに、その男が来ました。挨拶しにね。」いまのうちに、自分とツテをもっていたほうがいいと、わざわざ来た男に、考えておく、と答えたのは、普段は決してそんな場所にはいない、長い銀髪の男だった。
「いかがいたしましょう?ドン?」
 悪運が強いと宣言した、男の微笑をじっとみる。
「・・君に、・・賭けよう・・」
 自分でも、なぜ初対面の若造を信用したのかは、わからない。
こちらの顔を見たままで、その子どものような顔に浮かんだのは、なんともいえないこわい、笑いだった。ゆっくりと、掴まれていた手首がはなされ、その手が、こぶしを作るのを見た。
「―終わりにしよう」
男の、はっきりとした声が告げた。
 バ ン! とドアが蹴破られ、待機させていた部下が一斉に撃ってきた。自動小銃の発射音を耳にしながら、床へ突き飛ばされる。
どうにか倒されたテーブルの陰に入ることができていた。
早すぎて覚えていないが、自分を突き飛ばしてから引っ張ってくれたこの若者が、倒したのだろう。
「ったく。早くしてくれよ!」盾にしたテーブルがすごい音をだしている。「き、きみは?まさか、なにも持ってないのかい?」「ええ」こともなげに男はうなずいた。そんな、と思ったところで、なにか騒がしいものが入ってきた。男たちの悲鳴と怒声とうめき声。こちらではない方にむかっていた銃声も、完全になくなった。
「もお、遅いんじゃないの?」
「じゅうぶん、間に合ってるだろうがよお。だいいち、これはおれの仕事の範疇じゃあ、ねえはずだぜえ?」
「まあ、そうだけど。係わっちゃったんだから、しょうがないだろ?」口をとがらせるような話かたは、どこかの学生のようにしか見えない。
 ブン、と、なにか長いものを振り切る音がした。テーブルの裏をはって出ようとすれば、ぐい、と襟首をひかれる。
「申し訳ありません。彼は、うちの裏方ですので」ご挨拶させるわけには、いかないのですよ、と若者が微笑んだ。
「―貸しだぞお」「うん、ありがとう」
 まるで、それこそ学生のようなやり取りをして、相手は去った。
大丈夫ですか?と手を貸してくれた優しい顔をみながら思いもしなかった言葉をだしていた。
「―今回の話・・・傘下に、ということだが・・。考えてみよう」
一瞬きょとんとした若者は、ゆったり微笑むと「ありがとうございます」と腰を折り、頭をさげる。次に、「あ」と何か思い出したように、ポケットから鈍く光る鍵をとりだした。
「ごめんなさい。悪運が強い、なんて嘘です」
こちらの手に、それを押し付ける。知っている、形だった。
「・・彼女の家に、上がらせてもらいました。彼女、身寄りがないんですね。あなたが家を片付けろと指示した業者には、こちらがストップをかけました。家は、そのままです。新しく揃えていた調理器具、買い集めていた料理の本も、そのままあります。・・ゴミ箱に、書き損じの・・『おみくじ』たちが入っていました。どれも、これも・・ステキな当たりばかりでしたが・・それが、一番です」
 いつの間にか握り締めていた紙をしめされた。
「・・知って・・いたのか?」
「はい。彼女が本当にあなたを愛していたのも、あなたのカフスが集音機になっているのも、腹心の部下たちが、ドアの外に集まって待っているのも」
「・・・なぜ、一人で来たんだ?」
「だって、そういうお話だったでしょう?」たしかに、傘下にはいるかどうかの返事をするので、一人で丸腰で来い、とは伝えてあった。
 玄関で、本当に一人できたのを確認したあの部下から、逆に人質として捕まえてしまおうと提案があった。話し合いが折り合わなかったら、カフスを通して合図をおくることになっていた。
「うちに来たあの男の案では、今回の訪問で、あなたが、おれを人質にしようとしたところを、あの男が止める。あなたはボスを引退で、おれを助けたあの男が新しいボスとして、こちらの傘下にではなく、提携というかたちで加わる。話し合いできっとあなたは傘下入りを断るだろうから、カフスに『終わりにする』と言えば、自分たちが押し入って、ボスの交代劇になる。そういうものでした」
説明しながら、鼻で笑うように倒れて動かない男たちをみやった。
「・・いい笑いものだな・・。部下に裏切られ、妻に裏切られ、同業者に助けられ・・」
「笑うやつなんて、いません。あなたは部下の裏切りに気付き、愛しい人のかたきを取った。これからまた、この組織を立て直さなければなりません。」
 それが、一番上に立つものとしての仕事だ。
「・・・きみが、あそこのトップにいる理由が、わかったよ」
 若者は、ただ笑った。
「―喉が、渇いたな。ここを片付けさせて、新しくお茶を持ってこさせよう」どうにも落ち着きたくて、ずっとおきっぱなしで冷え切ったお茶に手をのばした。
    
              「飲むな!」

「・・・」
 初めての怒声。
 顔をみた若者は、はっとしたように失礼、と詫び、へらり、と笑った。

     「悪運は強くないんですが・・・勘は、よく当たるんです」

 
 



 後年、男は、他のドンに若者を紹介するとき、こう言って、当人を赤面させる。