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ラーメン食おうぜ!(仮タイトル)

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 もしかしたらあまり人付き合いは得意ではないのかもしれない。
 練習が終わり、グランドの隅のベンチに腰を下ろしている佐久間の姿を見て思った。練習中はこれといって浮いた様子はなかったが、それ以外の時間は一人で過ごしている姿をよく見かける。佐久間は雷門中の生徒ではないし、エイリア学園との戦いの際にキャラバンに乗っていたわけでもない。唯一同じ中学だった鬼道も今は別チームとなると、周りと馴染み辛いのかもしれなかった。
 そういった点においてキャプテンの円堂は鈍い。自分が少し声をかけてみよう、と風丸は佐久間が座っているベンチへと足を向けた。
「佐久間」
「……うん?」
 下から見上げるように視線だけを向けてきた佐久間の眼光は鋭い。これでは同学年の自分たちはともかく、一年生などは声をかけ辛いのも頷ける。
「え……っと、もしこの後暇なら一緒にラーメン屋行かないか? 響監督がやってる店なんだけど」
「……オレが、お前と?」
「ああ、そうだけど……。用事とかなければ……」
 じっと怪訝そうな顔で見つめられると、流石の風丸も少し居心地の悪さを感じた。もしかしたら、迷惑だったのだろうか。それに、よく考えれば佐久間は帝国学園の生徒だ。雷門中に、更には雷門中の生徒である自分に対して良い感情がない可能性だってある。そもそも帝国学園というのは結構な金持ちが通う学校だったはずで、そこの生徒である佐久間をラーメン屋に誘うというのにはいささか問題があったかもしれない。
「あ、もし嫌だったら嫌だって……」
「嫌じゃない。行く」
 そう言って顔を上げた佐久間は思ったよりも明るい表情をしていた。もしかして、さっきまでの険しい表情は行くかどうか悩んでいただけで自分を睨みつけていたわけではないのだろうか。
「佐久間、目つき悪いってよく言われるだろ」
「はあ? なんだよ急に。……でも、まあ、時々は」
 やっぱり、と頷く風丸の横で、佐久間はまた眉間に皺を寄せていた。
「それだよ、それ。その癖なおさないとうちの一年が怖がる」
 笑ってれば可愛い顔なのに、そう言ってみると「お前が言うな」と返された。

 ***

 こんにちは、と店に入ると店内に他の客の姿はなかった。佐久間はきょろきょろと店内を見ながら落ち着かない様子だ。
「床、すべるな」
「うん、気をつけろよ」
 一番奥のカウンターに座り、軽く手招きをして見せると佐久間は大人しく隣に座った。
「響監督、ラーメン二つ」
「おう」
 佐久間はまだ落ち着かない様子で入り口の方を見たり、ラーメンを作る響の様子を見たりしている。今までじっくり佐久間の姿を見る機会はなかったが、こうして見てみると随分中性的な顔の作りをしていると思う。風丸自身も女顔だと言われることは多いし、自覚もしているが多分それ以上だ。怪我をしていた時に雷門中のマネージャーの中に混じって練習を観戦していたことがあったが、その時違和感を感じなかったのにも頷ける。
「まつげ長いな」
 そう話しかけると今まで忙しなくあちらこちらにさ迷っていた佐久間の視線が自分に向いた。
「時々目に刺さる」
「あ、言われてみれば時々刺さる。あれ結構痛いよな」
「お前もまつげ長いからかな」
「長いと刺さるもんなのか?」
「さあ」
 適当に世間話を続けていると、目の前にラーメンが差し出された。
「いただきます」
「いただきます」
 両手を合わせている辺り、行儀はいい方なのだろう。初めて会ったときはフィールドの上で、容赦なくボールをぶつけられたためにどこか乱暴なイメージがあったが、こうして一緒に練習してみると性格そのものは雷門中の面々と比べると大人しい方だ。
「よく一人でいるけど、上手くやってけそうにないのか?」
 本当はもう少しそれとなく聞いた方がいいのかも知れなかったが、そうして遠まわしに何かを聞くのは性に合わなかった。単刀直入に切り出したその言葉に佐久間は少しだけ驚いたような顔をしたが、その後すぐに顔を伏せて口を開いた。
「鬼道や帝国のみんながいないところでサッカーやるの初めてだから、少し緊張する」
 佐久間は寮から帝国学園に通っていることもあり、あまり外部の人間との付き合いがないらしい。その学園の中でも基本的には鬼道や源田といったサッカー部の人間とばかりつるんでいたから、今のチームメイトとの接し方が良くわからないのだと言った。
「あんまり悩まなくてもいいと思うけどな」
 手元の割り箸を一膳、二つに割ってから自分の分のラーメンに手を付けようとしたところで、佐久間がじっと自分を見ていることに気が付いた。
「……どうかしたのか?」
「器用だな」
 器用とは何のことだろう、と首を傾げてから佐久間の手の中にある割り箸に気が付き、風丸は苦笑した。佐久間の手に握られている割り箸はかなり不恰好に割れてしまっている。口をつける前だからと言って自分の割り箸と交換してやると、佐久間は嬉しそうに風丸が割った割り箸を受け取った。
「あの、風丸」
「ん? 早く食べないと伸びるぞ」
「あ、そうか」
 佐久間は慌てて麺を箸で掬って口に運び、咽た。
「そんなに慌てなくてもいいけどな。で、なんだよ」
「前にボールぶつけたこと、謝りたかった」
「……あー」
 そう言えば、そんなこともあった。正直、色々なことがありすぎて忘れていた。
「まさか、顔面から突っ込んでくると思わなかった。後から聞いたらあの時はまだ正式にサッカー部じゃなかったって言うし」
「でも、佐久間だって同じ状況だったら同じことするんだろ?」
 同じ状況、という言葉に佐久間の表情が少しだけ曇った。あの時の雷門イレブンと同じ状況――世宇子中との試合のことを思い出していることは確かだった。
「ああ、そうだな。この目も、昔……」
 佐久間の右手が自身の眼帯に触れた。その眼帯の下を、もちろん風丸は見たことがない。
 まさか、その下にはサッカーによってついた無残な傷跡でもあるというのだろうか。言ってはいけないことを言ってしまったのではないだろうか。目の前の熱いラーメンとは逆に背筋がすっと寒くなる。
「あ……え、その……」
「嘘だよ」
「え?」
「嘘だって」
 先ほどまでの深刻そうな顔とは打って変わり、佐久間は人の悪そうな笑みを浮かべている。
「まさかこんなに簡単に信じると思わなかったんだよ。悪いな。それにしても風丸、すげー変な顔してた」
「それはお前が急に変なこと言うから……!」
 心配して損した、と不貞腐れながらラーメンを啜りだし、今度は佐久間の足のことが気にかかってきた。
「あ、そういえばお前、足は? 手術とかしたんだろ」
「ああ、うん」
 禁断の技と呼ばれる皇帝ペンギン1号を三回も打った佐久間の体は相当ボロボロになっていたと後から聞いた。あれから数ヶ月が経っているとはいえ、心配なのには変わりない。
「多分平気だ。完治したって聞いたし、リハビリもやったし」
「それならいいんだけど」
「うん。心配してくれてありがとうな」
 それからは麺が伸びる前にと黙々とラーメンを食べ、二人で行儀良く手を合わせてから雷々軒を後にした。
「結構腹いっぱいになるな」
「気に入ったか?」
「うん」