夏は暑いというけれど！
東京は池袋に新居を構えた帝人は、さっそく周囲の散策に出てみることにした。
強い日差しに辟易としながらもウィンドーショッピングを楽しんだり、可愛らしい雑貨屋さんに入って小物を物色したりと、なかなか楽しい。
今日の帝人の格好は、ロゴプリントが可愛いピンクのポロシャツにデニムのショートパンツ、足元は今年流行だというグラディエーターサンダル。片手にはスパンコールの装飾が施されている籠バッグ。
息子が見れば、「母さん年齢考えろよ…」と言われそうな出で立ちだが、アラフォーには見えない幼さと体形をもつ帝人の前では不要だ。
歩いている途中に何人かにナンパらしき声をかけられたが、笑顔で手を振ってサヨナラしてきた。
ちょっとハシャギすぎたかなぁと思った帝人は、近くにあったカフェの前で立ち止まる。ちょっとお茶でもしに入ろうとしたところで、後ろから声をかけられた。
「きみ可愛いね、ちょっとソコでお茶でもしない？」
ベタな台詞に思わず振り向くと、カンカン帽も夏らしく似合った中々丹精な顔立ちの男前が立っていた。惜しむらくは額から左目にかけて巻かれている包帯だ。なにか怪我でもしているのだろうか。怪我をしててもナンパとは、恐れ入る。
ナンパを断って立ち去っても良かったのだが、いい加減暑くなってきて休憩したいと思っていた帝人は、ニッコリと店内を指差した。
運ばれてきたフルーツパフェに目を輝かせた帝人は、「いただきます」と一言いってからスプーンを伸ばした。
フルーツ、カステラ、生クリームの層になっている上にはバニラアイスが二つ。色鮮やかなフルーツが見栄え良く盛り付けられ、生クレームとブルーベリーのソースで飾られている。ちょこんと乗ったミントの葉が涼やかだ。
「おいし…」
フルーツの酸味とアイスとクリームの甘味が絶妙だ。
パクパクと暫く夢中で食べていたが、ふと目の前でニコニコしながら帝人を見ている人を思い出す。
「いや～、美味しそうにたべるなぁハニーは」
「は…はにー」
そんな言葉本気で使ってる人初めて見た。六条千影と名乗った彼は、まだ高校生だという。
「えっと、美味しいです…よ？」
なんと言えば良いのか分からず、帝人はスプーンを銜えたまま首を傾げる。ちょっと行儀が悪かったかと慌てて口から離すと、六条がテーブルの上に突っ伏していた。
「……大丈夫ですか？」
「だ、だいじょぶ」
出てもいない汗を拭う仕草をした六条に、変な人、という感想を持つと、再び帝人はパフェを食べはじめる。
「みかちゃんは高校生なのか？」
みかちゃん…と呼ばれた相性に一瞬絶句したが、それをおくびにも出さずに帝人は「違います」と言った。
「じゃあ大学生なんだ？童顔だけど俺より年上なんだなぁ」
大学生どころかそれを飛び越して子どもまでいますと言ったらどうなるんだろ…。
そんなことを思いつつ、パフェ上部のアイスクリームを制覇した帝人は下のフルーツとカステラに匙を伸ばす。
「あ、おいしい」
生クリームの中にプレーンヨーグルトが混ぜられているのか、コクがありながらもサッパリしている。カステラと甘酸っぱいフルーツによく合う。
「こんど京平に作ってもらおうかなぁ」
レシピさえ分かれば、あの手先が器用な息子ならパフェくらい作ってくれそうだ。自分で料理をしないこともないが、誰かに作ってもらう方が美味しい。
「京平って誰だ？！彼氏か？！」
「いや、ちがいます」
「じゃあ何だ！！」
「声が大きいです！」
周囲の視線が集まり始めていることに気付いたのか、六条も黙る。
「で、彼氏なのか」
「ていうか、あなたに関係なくありません？」
今日出会ったばっかりで初めてお茶した相手に彼氏だ何だと詮索される覚えはない。
「関係なくない。俺、ミカに惚れたから」
「は？」
いやいや、それはないだろう。
「キミは女の子なら誰でも良いの？」
思わず溜息の一つも吐きたくなって、ガラス張りの店内から外へ視線を逸らす。そこへ最近見慣れた人物二人が、やけに大きい青い袋を持って歩いているのに気付いた。
「あれま」
呟いた帝人に六条も同じように視線をやっているが、そんなことは構わない。向こう側も視線に気付いたようで暫くキョロキョロしていたが、帝人が手を振ってやるとパッと顔を輝かせてこちらにやって来た。指で店内を示すと、数度頷いてから中へ入ってきた。
「お久しぶりっす帝人さん」
「こんにちは帝人さん！若いツバメとお茶ですか？」
「ツバメじゃなくてナンパね」
「さすが帝人さん！！パネェww」
遠慮なく空いてるイスに座った二人を、六条は呆気に取られた顔をしてみていた。
「帝人さんは何食べてるんですか？」
「フルーツパフェだよ」
「美味しそう！」
「一口食べる？」
そこは女の子、甘い物に目がない。目を輝かせた狩沢に、帝人はスプーンの上に器用にフルーツとクリームとカステラを乗せると差し出す。それにパクリと狩沢は食いついた。
「「ああー！！」」
「美味しい～！！」
「でしょ？」
ニコニコとしている帝人に頷くと、メニュー表を見ながら狩沢は「私も同じのにしようかなぁ」と呟いている。
「ズルイっす！」
「俺が先にやってもらう予定だったのに…」
「寝言は寝て言ってくださいね」
「すいませ～ん、注文良いですか？」
店員を呼んだ狩沢が勝手に遊馬崎の分も頼んでいると、その後ろからもう一人店内に入ってくる人がいた。
「お前ら、用がすんだならサッサと帰ってこい」
「門田さん！」
「ドタチン！ごっめぇーん、忘れてた！」
「忘れてた、じゃねぇだろ。渡草も待ってるぞ」
「えー、でも注文しちゃった」
「今なら取り消せる」
やれやれと、帰ってこない二人を迎えにきた門田がテーブルを見ると、ヒラヒラと手を振っている帝人が。
「なんでここにいる」
「ちょっと散策を」
たまたま二人を見かけたから店内に呼んだ、と言うと「偶然って怖いな」と門田は呟いた。
「京平ってお前か！」
ガタッと立ち上がった六条に、「六条、お前いつからいたんだ」と門田は言った。
「門田さん、最初っからいたっす」
「そうよドタチン、帝人さんをナンパした人よ」
「六条…お前よりにもよって…」
何故この人選なんだ。
「ミカ、こいつがお前の彼氏か？！」
「だから、違いますってさっきも言いましたよね」
「じゃあ友達か？」
プハッと狩沢が噴き出す。
「そこの彼女、なにか可笑しいところがあったか？」
腐ってもフェミニスト、狩沢相手に暴言を吐くことなく六条は尋ねる。
「えーだって」
どうぞ、と帝人が促すのを見ると、ニヤンとチシャ猫のような笑みを浮かべて狩沢は言った。
「ミカミカはドタチンのお母さんなんだよ？」
「さすがにナンパした相手が子持ちだと知ると、普通驚くっす…」
「おーい、固まってるけど大丈夫？」
「だいぶショックが大きいみたいっすね」
「いいからこの間に行くぞ」
「えー、パフェは？」
「ちがうとこで食えばいいだろ。ほら母さんも」
「はいはい」
ちゃっかりパフェを完食していた帝人も門田に言われて席から立ち上がる。
「じゃあね、六条くん」
強い日差しに辟易としながらもウィンドーショッピングを楽しんだり、可愛らしい雑貨屋さんに入って小物を物色したりと、なかなか楽しい。
今日の帝人の格好は、ロゴプリントが可愛いピンクのポロシャツにデニムのショートパンツ、足元は今年流行だというグラディエーターサンダル。片手にはスパンコールの装飾が施されている籠バッグ。
息子が見れば、「母さん年齢考えろよ…」と言われそうな出で立ちだが、アラフォーには見えない幼さと体形をもつ帝人の前では不要だ。
歩いている途中に何人かにナンパらしき声をかけられたが、笑顔で手を振ってサヨナラしてきた。
ちょっとハシャギすぎたかなぁと思った帝人は、近くにあったカフェの前で立ち止まる。ちょっとお茶でもしに入ろうとしたところで、後ろから声をかけられた。
「きみ可愛いね、ちょっとソコでお茶でもしない？」
ベタな台詞に思わず振り向くと、カンカン帽も夏らしく似合った中々丹精な顔立ちの男前が立っていた。惜しむらくは額から左目にかけて巻かれている包帯だ。なにか怪我でもしているのだろうか。怪我をしててもナンパとは、恐れ入る。
ナンパを断って立ち去っても良かったのだが、いい加減暑くなってきて休憩したいと思っていた帝人は、ニッコリと店内を指差した。
運ばれてきたフルーツパフェに目を輝かせた帝人は、「いただきます」と一言いってからスプーンを伸ばした。
フルーツ、カステラ、生クリームの層になっている上にはバニラアイスが二つ。色鮮やかなフルーツが見栄え良く盛り付けられ、生クレームとブルーベリーのソースで飾られている。ちょこんと乗ったミントの葉が涼やかだ。
「おいし…」
フルーツの酸味とアイスとクリームの甘味が絶妙だ。
パクパクと暫く夢中で食べていたが、ふと目の前でニコニコしながら帝人を見ている人を思い出す。
「いや～、美味しそうにたべるなぁハニーは」
「は…はにー」
そんな言葉本気で使ってる人初めて見た。六条千影と名乗った彼は、まだ高校生だという。
「えっと、美味しいです…よ？」
なんと言えば良いのか分からず、帝人はスプーンを銜えたまま首を傾げる。ちょっと行儀が悪かったかと慌てて口から離すと、六条がテーブルの上に突っ伏していた。
「……大丈夫ですか？」
「だ、だいじょぶ」
出てもいない汗を拭う仕草をした六条に、変な人、という感想を持つと、再び帝人はパフェを食べはじめる。
「みかちゃんは高校生なのか？」
みかちゃん…と呼ばれた相性に一瞬絶句したが、それをおくびにも出さずに帝人は「違います」と言った。
「じゃあ大学生なんだ？童顔だけど俺より年上なんだなぁ」
大学生どころかそれを飛び越して子どもまでいますと言ったらどうなるんだろ…。
そんなことを思いつつ、パフェ上部のアイスクリームを制覇した帝人は下のフルーツとカステラに匙を伸ばす。
「あ、おいしい」
生クリームの中にプレーンヨーグルトが混ぜられているのか、コクがありながらもサッパリしている。カステラと甘酸っぱいフルーツによく合う。
「こんど京平に作ってもらおうかなぁ」
レシピさえ分かれば、あの手先が器用な息子ならパフェくらい作ってくれそうだ。自分で料理をしないこともないが、誰かに作ってもらう方が美味しい。
「京平って誰だ？！彼氏か？！」
「いや、ちがいます」
「じゃあ何だ！！」
「声が大きいです！」
周囲の視線が集まり始めていることに気付いたのか、六条も黙る。
「で、彼氏なのか」
「ていうか、あなたに関係なくありません？」
今日出会ったばっかりで初めてお茶した相手に彼氏だ何だと詮索される覚えはない。
「関係なくない。俺、ミカに惚れたから」
「は？」
いやいや、それはないだろう。
「キミは女の子なら誰でも良いの？」
思わず溜息の一つも吐きたくなって、ガラス張りの店内から外へ視線を逸らす。そこへ最近見慣れた人物二人が、やけに大きい青い袋を持って歩いているのに気付いた。
「あれま」
呟いた帝人に六条も同じように視線をやっているが、そんなことは構わない。向こう側も視線に気付いたようで暫くキョロキョロしていたが、帝人が手を振ってやるとパッと顔を輝かせてこちらにやって来た。指で店内を示すと、数度頷いてから中へ入ってきた。
「お久しぶりっす帝人さん」
「こんにちは帝人さん！若いツバメとお茶ですか？」
「ツバメじゃなくてナンパね」
「さすが帝人さん！！パネェww」
遠慮なく空いてるイスに座った二人を、六条は呆気に取られた顔をしてみていた。
「帝人さんは何食べてるんですか？」
「フルーツパフェだよ」
「美味しそう！」
「一口食べる？」
そこは女の子、甘い物に目がない。目を輝かせた狩沢に、帝人はスプーンの上に器用にフルーツとクリームとカステラを乗せると差し出す。それにパクリと狩沢は食いついた。
「「ああー！！」」
「美味しい～！！」
「でしょ？」
ニコニコとしている帝人に頷くと、メニュー表を見ながら狩沢は「私も同じのにしようかなぁ」と呟いている。
「ズルイっす！」
「俺が先にやってもらう予定だったのに…」
「寝言は寝て言ってくださいね」
「すいませ～ん、注文良いですか？」
店員を呼んだ狩沢が勝手に遊馬崎の分も頼んでいると、その後ろからもう一人店内に入ってくる人がいた。
「お前ら、用がすんだならサッサと帰ってこい」
「門田さん！」
「ドタチン！ごっめぇーん、忘れてた！」
「忘れてた、じゃねぇだろ。渡草も待ってるぞ」
「えー、でも注文しちゃった」
「今なら取り消せる」
やれやれと、帰ってこない二人を迎えにきた門田がテーブルを見ると、ヒラヒラと手を振っている帝人が。
「なんでここにいる」
「ちょっと散策を」
たまたま二人を見かけたから店内に呼んだ、と言うと「偶然って怖いな」と門田は呟いた。
「京平ってお前か！」
ガタッと立ち上がった六条に、「六条、お前いつからいたんだ」と門田は言った。
「門田さん、最初っからいたっす」
「そうよドタチン、帝人さんをナンパした人よ」
「六条…お前よりにもよって…」
何故この人選なんだ。
「ミカ、こいつがお前の彼氏か？！」
「だから、違いますってさっきも言いましたよね」
「じゃあ友達か？」
プハッと狩沢が噴き出す。
「そこの彼女、なにか可笑しいところがあったか？」
腐ってもフェミニスト、狩沢相手に暴言を吐くことなく六条は尋ねる。
「えーだって」
どうぞ、と帝人が促すのを見ると、ニヤンとチシャ猫のような笑みを浮かべて狩沢は言った。
「ミカミカはドタチンのお母さんなんだよ？」
「さすがにナンパした相手が子持ちだと知ると、普通驚くっす…」
「おーい、固まってるけど大丈夫？」
「だいぶショックが大きいみたいっすね」
「いいからこの間に行くぞ」
「えー、パフェは？」
「ちがうとこで食えばいいだろ。ほら母さんも」
「はいはい」
ちゃっかりパフェを完食していた帝人も門田に言われて席から立ち上がる。
「じゃあね、六条くん」
作品名：夏は暑いというけれど！ 作家名：はつき