ソリチュード・Ⅱ
「たしかに、これだけの人数を有するコミュニティはそうそうないね。しかも老若男女、年齢性別問わずだ。情報収集の効率も良さそうだし。やり方にもよるけど、このコミュニティから流行を発信することも不可能ではない。一種の社会現象や暴動も扇動できるだろうね」
『ダラーズは誰のものでもない、皆ものもだ!』
「分かっているよセルティ」
「父も、セルティさんと同じ気持ちでした。ダラーズに王様はいらない……でも調整役は必要でした」
「帝人くんのお父さんが狙われた理由がよく分かったよ」
『ダラーズを利用したい奴らが接触したんだろうな』
「そして交渉は決裂。ダラーズを意のままに操りたい相手と、ダラーズを自由にしておきたい帝人くんのお父さん。双方の意見は平行線のまま決して交わることはない」
「はい」
横に座らせていたテディベアを帝人は抱き寄せると口元を押し付ける。
「でも…母さんがいても殺られたとなると、相手は相当の手練ですね…」
むっと帝人は眉間を寄せる。
『帝人のお母さんは強いのか?』
「はい、むかし殺し屋だとか暗殺者をしていたそうで」
「うん!もう驚かないよ!!」
『充分驚いているだろう…』
「父と出会って結ばれたときに現役は引退したそうなんですが、今でも復帰のオファーが絶えないとか」
「…………」
自分の親も大概マトモな人物とは思えないが、この子の両親もかなりスゴいと思う新羅だった。
「あの、そういえばセルティさんは、僕をどこに運ぼうとしていたんですか?」
帝人の両親の肩書き…というか職業に、闇医者である新羅と妖精であるセルティも驚いていると、ふと帝人が思い出したそうに尋ねた。
『実は、特にどこという指定はされていなかったんだ。ただ、繁華街にある程度近くて人家のないところ、とはされていた』
「なるほど…」
セルティのPDAの文章を読んだ帝人は納得したように頷いた。
「なるほど、とは?」
「おそらく、父はセルティさんが箱の中を見てしまうことも考慮していたと思います。でも、そうじゃない可能性も考えていた。現在、僕は運良くセルティさんに見つけられてここにいますけれど、そうじゃなかった場合は自分で行動しないといけません。だとしたら、まず人通りの少ないところで箱から脱出して、そのあと移動手段や連絡のツールが多様な繁華街に出て人混みに紛れれば良い」
「でも子どもの君じゃ、行動範囲が限られているんじゃないかい?」
「何もないところに置いていかれるよりはましですから」
「それはそうだね」
一通りの応酬が終わると帝人はセルティに向き直る。それに僅かにセルティは身構えた。
「セルティさん、お願いなんですが、僕を粟楠会の事務所に連れていってください」
『なんだと?!帝人!何を考えているんだ!?』
「お願いがダメなら依頼でも良いです。お金は多少ありますから」
おもむろに帝人はテディベアの背中に手を突っ込むと万円札の束を取り出す。
「え、何このクマすごい!」
俄然テディベアに興味を持った新羅を余所目にセルティは必死で首をする。
『可愛い帝人をあんな危ない極道の事務所になんか連れていけるか!?』
「でも、どうしても会いたい人がいるんです」
『ダメだダメだ!』
「その会いたい人って誰なの?」
『新羅?!』
「まぁまぁセルティ、とりあえず誰かくらい聞いても良いでしょ?」
『…………』
「分かったから三点リーダーに怒りを込めないで。…で、帝人くんが会いたい人っていうのは誰かな?」
「粟楠会の、四木さんに会いたいんです」
「……四木さんとはどういうご関係で」
「父と母のお友達です」
きっと四木さんなら、なんとかしてくれると思うんです。
新たに出てきた帝人の両親の交友関係に「帝人くんのご両親は交友関係が広いんだねぇ」と新羅は言う。情報屋ともなれば、そのレベルが高くなるほど様々な業種の知り合いや依頼人がいても不思議ではない。ましてや母親が元ヒットマンともなれば、なおさら裏社会にツテがあってもおかしくないだろう。
『四木さんに会ったとして、帝人は何をするつもりなんだ?』
「それは…」
「それは?」
「内緒です」