letter from
【letter from】
その言葉が向けられる日が来ることを、俺はどこかで期待していたのかもしれない。
最後の一文を書き終えてペンを置いた。
うっかり触れてしまった指のせいで、文字が掠れて滲む。あ、と思った時にはすでに便せんは汚れてしまっていた。
ため息をつきながら、汚れてしまった指をこすり合わせる。書き直す気はなかった。
封筒には宛名はない。
真っ白なままの封筒の中に丁寧に折りたたんだ手紙をしまいこんだ。
どうせ出す気なんてない。ただ、書いてみたかっただけの言葉を意味もなく並べてた手紙だ。
汚れていようが読めないほどの走り書きだろうが、何だろうと構わない。
もし出したところで、筆記体ですべてを綴ったこの手紙を彼が読めるとはイギリスには到底思えなかった。
「あれ、何だい手紙出さないのかい?」
「アメリカ、お前どこから…」
不意に掛けられた声に驚いて顔を向けると、我がもの顔で書斎の入口から顔を出しているアメリカがいた。
呼び鈴が鳴っていた覚えはないし、来客を知らせる声もなかった。
昔馴染みの気安さか、それとも昔は一緒に暮らしていた名残なのか。
アメリカは割とイギリスに対しては遠慮がない。今もこうして平気な顔して不法侵入をするくらいには。
「玄関開いてたぞ、不用心だなぁ」
「だからって無断で入るなこのバカ!」
「えーいいじゃないかそんな堅苦しい」
「お前と話してると俺に常識がないみたいに思えてくるから不思議だな」
封をした手紙を引き出しの一番下に投げ入れる。
かさり、と鳴った乾いた音が手紙がもう山となってしまわれていることを示していた。
おそらくそれに気づいただろうに、アメリカは何も言わない。イギリスもそれについてどうこう言う気はさらさらなかった。
これは、イギリスの秘密だ。きっと打ち明ける日などこない秘密。
「で、今日は何だ?」
パタン、と引き出しを閉める。アメリカの目がそれを追っていたが見ないふりをした。
「君の淹れた紅茶が飲みたくなって」
「はぁ?」
「っていうのはうそなんだけど、普通に遊びに来ただけだよ。あとちょっと仕事の話」
「……昨日いい茶葉が手に入ったから、ついでに入れてやる」
「まずいスコーンもつけてくれるかい?」
「熱湯かけられたいのかてめぇは!」
冗談だよ、と明るく笑うアメリカを軽くこづいてイギリスはキッチンに向かう。
その言葉が向けられる日が来ることを、俺はどこかで期待していたのかもしれない。
最後の一文を書き終えてペンを置いた。
うっかり触れてしまった指のせいで、文字が掠れて滲む。あ、と思った時にはすでに便せんは汚れてしまっていた。
ため息をつきながら、汚れてしまった指をこすり合わせる。書き直す気はなかった。
封筒には宛名はない。
真っ白なままの封筒の中に丁寧に折りたたんだ手紙をしまいこんだ。
どうせ出す気なんてない。ただ、書いてみたかっただけの言葉を意味もなく並べてた手紙だ。
汚れていようが読めないほどの走り書きだろうが、何だろうと構わない。
もし出したところで、筆記体ですべてを綴ったこの手紙を彼が読めるとはイギリスには到底思えなかった。
「あれ、何だい手紙出さないのかい?」
「アメリカ、お前どこから…」
不意に掛けられた声に驚いて顔を向けると、我がもの顔で書斎の入口から顔を出しているアメリカがいた。
呼び鈴が鳴っていた覚えはないし、来客を知らせる声もなかった。
昔馴染みの気安さか、それとも昔は一緒に暮らしていた名残なのか。
アメリカは割とイギリスに対しては遠慮がない。今もこうして平気な顔して不法侵入をするくらいには。
「玄関開いてたぞ、不用心だなぁ」
「だからって無断で入るなこのバカ!」
「えーいいじゃないかそんな堅苦しい」
「お前と話してると俺に常識がないみたいに思えてくるから不思議だな」
封をした手紙を引き出しの一番下に投げ入れる。
かさり、と鳴った乾いた音が手紙がもう山となってしまわれていることを示していた。
おそらくそれに気づいただろうに、アメリカは何も言わない。イギリスもそれについてどうこう言う気はさらさらなかった。
これは、イギリスの秘密だ。きっと打ち明ける日などこない秘密。
「で、今日は何だ?」
パタン、と引き出しを閉める。アメリカの目がそれを追っていたが見ないふりをした。
「君の淹れた紅茶が飲みたくなって」
「はぁ?」
「っていうのはうそなんだけど、普通に遊びに来ただけだよ。あとちょっと仕事の話」
「……昨日いい茶葉が手に入ったから、ついでに入れてやる」
「まずいスコーンもつけてくれるかい?」
「熱湯かけられたいのかてめぇは!」
冗談だよ、と明るく笑うアメリカを軽くこづいてイギリスはキッチンに向かう。
作品名:letter from 作家名:湯の人