letter from
書斎に残したアメリカがまさか引き出しを開けて手紙を一部抜き取ったことなど気づきもしないで。
【君が好きだ、菊】
走り書きした想いの欠片。
ぼんやりと思いだした言葉の断片は、イギリスの中に少しずつ蓄積していく。
そしてそれはアメリカを打ちのめすのだ。
「アメリカ?どうした、ぼんやりして」
お茶うけに出されていたのはスコーンと、アメリカが買ってきたドーナツだった。
勝手にキッチンのテーブルに置いておいたことに気づいてくれたらしい。
アメリカは尻ポケットに乱暴に突っ込んだ手紙がずしりと重たいような錯覚を覚えた。
めまいがする。どこかくらくらと。
手紙に羅列された言葉たちが苛んでくるみたいだ。
「あ、ドーナツ勝手に開けたけど」
「いいよ。君と食べようと思ってたし。俺んちオススメなんだぞ」
「へぇ。あ、紅茶普通の飲み方でいいよな?お前ミルクティーのほうが好きみたいだけど」
「うん」
促されてイギリスの前に座る。
極めて彼はなぜか上機嫌だった。
それが突然に、腹立たしく思えた。
「スコーンにはジャムをつけ」
「なぁイギリス。君ってすごく本当にどうしようもない馬鹿だよね」
言葉を遮られたイギリスが一瞬あっけにとられたような顔をした。
アメリカはなんだか無性に腹が立ってきて、ポケットから乱暴に手紙を引き抜いてテーブルの上に叩きつける。
目の前の彼がサッと顔色を変えたのが分かった。
「これが本当にあの天下の大英帝国様かと思うと呆れるよ」
「なっ…これ…何で…!」
「しかもこんな悪筆で…この手紙が読めるのなんて俺かフランスくらいなんじゃないの?」
ほとんど走り書きのような筆記体はイギリス独特の筆跡だ。
同じ言語を解する上に文字も言葉もすべてイギリスに教わったアメリカならなんなく読める。長い付き合いのフランスもきっと読める。
でも彼は。この手紙の宛名の彼には絶対に、読めない。
操る言葉も違う、東洋の小さな島国の中で育った彼には、絶対に。
だからハナから出す気のない手紙だってことは分かったし、秘めたる思いなんだろうということも分かった。
それが、よけいに苛立ってしょうがなくて。
「伝える気もないのかい?とんだ臆病者なんだな!」
イギリスが俯いた。
アメリカは何に腹が立っているのか分からなくなってきて、ひとまずイギリスが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
作品名:letter from 作家名:湯の人