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はやくおいで、君を飼うための檻は用意してある

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「んっ・・・」

最初は触れるだけでいると、物足りないとでも言うようにイザヤさんにじっと見つめられた。恥ずかしくてたまらなくて目をそらしてもイザヤさんからの視線をひしひしと感じてしまう。意を決して舌を差し出すとイザヤさんの口は受け入れるように開いて、そして軽く噛まれた。
びっくりして慌てて離れようとしたけれど、いつの間にかイザヤさんの手が僕の頭を固定していて逃れられなかった。それ以上はどうしようもなかったので、イザヤさんがいつもしているのをまねて、歯列をなぞったりイザヤさんの舌と絡ませようとしたりと必死に舌を伸ばす。でもうまくいかず、ついにはイザヤさんも我慢できなくなったのか、頭を固定していた手はそのままにもう一方の手を僕の頬に添えてより深く貪るように唇を重ねてきた。

僕の狭い口内を好き勝手に蹂躙しては舌を絡ませる。ちゅっと吸ったり、逆に唾液を流し込まれたり・・・。僕は習った通りにイザヤさんの唾液を飲みこんだ。まるでいい子だとでも言うようにイザヤさんは頬に添えた手を下に伝わせて首元をさする。でも人に触れられるのに慣れていない僕はぞわりと鳥肌が立たせてしまうだけだった。
息がうまく吸えないせいか頭がくらくらしてきた。唇を重ね合わせた隙間からどうにか息を吸い込もうとしてもまったく足りない。鼻で息をするように言われてはいるけども、まだそれもうまくできないのだ。
そろそろ意識が遠のきかけている僕を見かねたのか、イザヤさんは突然口を離した。

「はあ、はあ、はあ・・・っ」
「あーあ、ミカドくんも全然慣れないねえ」

息を吸うのに必死な僕とは正反対にイザヤさんは余裕の表情だった。飲み込み切れずこぼれてしまった、どちらのものかもわからない僕の口元のよだれを舌で舐めとっている。そしてふらふらな僕の身体を支えながら、片方の手を僕の頭の上についている耳に伸ばしていた。

「ひゃあっ、みっ…みみつかまないでぇ・・・! しっぽも・・・っ!!!」
「ごめんごめん、ミカドくんは耳もしっぽも弱かったもんね」
「はあ・・・、はあ、みみ・・・つかまれると、おなかの奥の方が・・・じんってするんです・・・」

息を切らしながら僕が説明すると、イザヤさんは何故か楽しそうに僕を強く抱きしめた。

「あはははっ、ミカドくんは本当にかわいいなあ!!!」
「かわいいって言われてもうれしくないんですけど・・・」
「なんで? 外の世界ではれっきとした褒め言葉だけど?」
「・・・そうなんですか? でも、あの、本当にこういうことも外の世界では普通なんですか?」
「普通だよもちろん。もしかして俺の言ってることが信じられない?」
「いえ、そういうわけでは・・・・・・」

イザヤさんを疑っているわけではないけれども、でもやっぱりこんな恥ずかしいことが普通だなんて信じられない。

「でも他の奴らには絶対にしちゃダメだからね。森の中では普通ではないんでしょ?」
「はい・・・」
「それに俺との約束も、ちゃんと守ってるよね?」

そう、約束だ。僕が人間であるイザヤさんに会っていることを誰にも話さなければ、イザヤさんは僕を外の世界に連れて行ってくれるという、約束。

「はいっ、もちろんです! そもそも誰かに言っちゃったらもうイザヤさんに会えなくなっちゃいますし」
「そうしたらミカドくんを外の世界に連れて行けなくなっちゃうしね・・・。ミカドくんもすぐに俺と一緒にくればいいのに」
「すみません、勝手言って・・・。でもせめて、次の僕の誕生日までは待って下さい。そうすれば森では一人前って認められているので。形だけですけど・・・」
「うん、いいよ。ミカドくんがそいう言うならいつまでも待つから。でも・・・」
「でも?」
「いきなり、やっぱりやめたっていうのはなしだからね?」

一瞬臨也さんの視線が鋭くなったような気もしたけれど、次の瞬間にはいつも通りの笑顔を浮かべていた。

「はい、わかってますよ」

だってこんなに誕生日を、イザヤさんと外の世界に行くのを楽しみにしているんですから。


◆◇◆◇◆◇◆


ああ、楽しみだなあ!!!
本当は今すぐにでも連れだしたいけど、それじゃあミカドくんに嫌われちゃうからね。
俺ってば健気だなあ!
前に見つけた猫は見世物にすればちょっとした小銭ぐらいは稼げるかなって思ってたけど、
あの子にはそんな勿体ないことしない。
誰にも見せたりはしない、俺だけが、俺だけの手でかわいがってあげるんだ。
もう君のすみかは用意してあるから安心していいよ。

だから、だから!!!

はやく俺のもとにおいで、ミカドくん!!!!!