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(インテ新刊サンプル)翼あるもの

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 ───天羽族、と呼ばれる一族が居る。












 その名の通り背に翼をもつ彼らは、生まれながらに高い魔力や体力を持つといわれ、人々に恐れられてきた。
 しかし当人達の性格は至って穏やかで争いごとを好まず、また無用な摩擦を避けるために、大抵はその翼を隠して生きてきた。
 ある者は山奥に作られた彼らの集落で生涯を過ごし、またある者は街へ降り、人と交わることで存在を目立たぬものとして溶け込ませた。
 もしくは、一族の流れを汲む者である事を公表せず、あえて力をふるって街に君臨した。



 さてある日、その隠れ里が人間によって襲撃された。
 多くの者が人間に殺され、いくらかの者がなんとか難を逃れ。
 そして、幾人かの同胞が行方知れずとなった。


 それから、約十年の月日が流れた。








「───宗教団体?」
「はい。ここ十数年の間で、じわじわと信者を集めてきた宗教だそうです。並盛にも支部を置きたいので、ぜひ恭さんの許可が欲しい、と」
「許可ぐらいなら、君が勝手にやってもいいのに」
「いえ、それが…ぜひ視察に来て欲しいとの、先方のたっての希望でして」
「宗教に興味はないよ。許可ならくれてやるから勝手にしろって言っておいて」
「ですが…」
「未だ何かあるの、哲?」
 諄いと言わんばかりに柳眉を跳ね上げた青年に、哲と呼ばれた男が手にしていた書類を差し出す。
「…その教団の、ご神体というのが……『羽の生えた生き神』、らしいんです」
「…なんだって?」




 じゃら、と鎖が耳障りな音を立てる。
「……つ、う…っ」
 ゆっくり半身を起こすと、頭が奇妙な浮遊感に襲われた。
 両腕には包帯の巻かれた跡。手首から二の腕まで、真っ白な包帯に覆われている。
(また、血を抜かれたのか)
 浮遊感は貧血症状だ。
 これで今年に入って何度目だろう、もう数えることすら億劫で。
 日にちの感覚すらおぼろだ。
(この傷が塞がらなければいいのに。…ああ、でも)
 傷が塞がらなければ、背中の羽をむしり取られる。
 持っている力を、奪い取られるのだ。
 どちらにしたって、痛いことには変わりない。





「…はあ…」
 ため息をついてとさりと転がり、少女は首を巡らせて上を見上げる。
 高い高いはるか頭上、白い空間の中でそこだけがぽっかりと切り取られている窓。
「空が、遠いな」
 相変わらず、と心の中で付け加えて。
 四角い空は青い色。今日は天気がいいらしい。
(お日様って、あったかいのかな。何色をしていたんだっけ)
 幼い頃の記憶というのは曖昧で、そんなことももう少女の中には残っていない。
 ただ、数日に一度入れられる風呂場の鏡で見る自分の長い髪が金茶色をしていること、瞳の色が琥珀色であること、着せられている衣服が塔と同じ白い色であること。
 手足を繋ぐ鎖の色が鈍く光る鉛色であること、それくらいしかわからない。
 食事ですら一日に一度運ばれてくるパンとスープだけで、味も良くわからない。
 魔力を封じる呪の彫られた鎖と枷のおかげで手足には満足に力が入らず、さして広くもない空間にころりと横になっていることくらいしかできない。
 胎児のように丸くなり、開いた掌をじっと見つめる。
「…あいたいなあ」
 あのひとは無事に逃げ延びたのだろうか。
 幼くてもとても強い人だったから、いまでもきっと元気にしているはず。
 彼の親友だった人も、その従妹も。
 そして、自分と同い年の親友たちも。
 もう何年も前のことなのに、昨日のことのように思い出す。
 巫女姫だと言われ崇め奉られて育ってきた中で、少女を『少女』として見てくれた数少ないひとたち。
 その中でもあのひとは、ただひとり「僕がきみをずっと守ってあげるから」、そう言ってくれたひと。
「でも、きっとだめなんだろうなあ」
 だって俺は、籠に閉じこめられた鳥だから。

 ころりと寝返りを打つ。
 背中で押しつぶした翼が少しだけ痛むけれど、傷つけられた手足に比べればどうってことない。
 彼方の空へ向かって手を伸ばした。
 決して掴むことの出来ぬそこを掴むように、両手を握り締めて。
「……でもあいたいよ、にいさま」