八十一
「マックス? なら今ベンチで水分摂ってるけど」
「ほんとだ。ありがとう、半田くん」
「え、うん」
急に現れたかと思うと、松野はどこかと聞いてくる吹雪になぜか気圧されながら半田は返事をする事しか出来なかった。その独特の雰囲気がある笑顔で礼を言われれば更に恐縮してしまう。だがそんな、半田はとっとと置いて吹雪は行ってしまった。
「吹雪じゃねえか。どうした急に」
「うー? うん、なんかマックスに用事」
「はぁ? なんでマックスだよ」
「そんなの俺が聞きたいよ……」
「染岡さーん半田さーん早くシュート練習しましょうよー」
「おー、わりわり」
吹雪の姿を目にした染岡が近寄ってきたが、遠くから宍戸に急かされ半田と染岡は練習に戻った。そうしてる間に吹雪は松野の側に駆け寄っていた。
「……何?」
案の定、松野は無愛想な態度で吹雪を見つめた。しゃがみ込んだ態勢で、吹雪が前に踊り立つ形だが、松野は顔をあげようとすらしない。目線をちらりと上にやっただけだった。
「松野くん、松野くんはこの間言ったよね? 僕の事がキライだって」
「言ったかもね」
「キライから、スキになる事だって、あるよね?」
「………ハァ……またそれか」
「だって、だって僕、松野くんに嫌われていたくないんだ」
吹雪は思ったままの事を松野に伝えた。これしか方法がなかった。
「…………キミの、そーいうとこは好きかも」
松野は自らを見つめてくる吹雪をやっと、見上げ、溜息をつきながら呆れたように笑った。まったくこのチームの連中ときたらどいつもこいつも自分に飽きる事をさせてくれない。松野はもう一度嘆息した。
「やった! じゃあ僕達両思いだね!」
「それはどーかな」
「でも、僕らが一緒になったら最強だね」
「どうして? っていうか、それ染岡がかわいそうじゃない?」
「だって僕は背番号9番、キミも9番でしょう? 9は1ケタの中で一番強い数字なんだから。かけ算九九では81だよ」
「……トンデモ理論だね、ソレ。でも、キライじゃないよ」
「やっぱり、両思いだね、僕たち」
やたらと自分の世界で朗らかに笑う吹雪に、松野はまた大きく嘆息した。またとんでもない相手に好かれてしまったようだ。これでまた当分は退屈出来ない事になるだろう。彼らが大空に羽ばたく、その日まで。松野は、吹雪を置いておくとしてそろそろ練習に戻ろうと思い立ち上がった。すると、ある事に気づいた。
「……キミの事、ちょっと気に入ったよ」
「ほんと? 嬉しいなあ」
松野の言う事の理由も特に考えず、無邪気に喜ぶ吹雪を尻目に松野はしみじみ思った。話す時いちいち首を上げなくていいのはなんてよい事だろう、と。
おまけ
「ていうか、マツノクンってやめてくれないかな。マックスって呼ばれ慣れてるから」
「うん、わかった。じゃあマックスくんって呼ぶね」
「…………もー、いいよ……松野で……」
「???」