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黒猫と夜

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 その時、僕の耳に、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。冷えた夜の空に、静かにサイレンが木霊して、道行くひとも、何か事故があったのか、とサイレンのする方向をきょろきょろと目線で探している。足は止めずに、視線だけを動かして。
「どうしたの?」、と臨也さんは声をかけたのに、言葉を続けない僕に首をかしげた。僕はというと、言いたいことがサイレンに気をとられてしまった所為で、どこかへいってしまっていた。結局しどろもどろに、「な、んでも、ない、です」、と言うことしか出来なかった。
「そう」、それならいいけど、と臨也さんはまた僕の手を引いて歩き出す。

 臨也さんは僕の手を引いて、駅へ向かう人の間を、逆方向へ、まるで猫のようにひょうひょうと人の間をくぐっていく。あの路地裏の黒猫は、もう事切れてしまっただろうか。気になって後ろを振り返るけれども、もうどの路地裏だったかすら思い出せないほど遠くなっていた。誰か気がついてくれるといいけれど、と、僕は視線を前へ戻す。



 僕はただ静かに、臨也さんの足が止まるまで、その背中を目で追っていた。
 ふと、いつの間にか聞こえなくなったサイレンに、そういえば、だれが事故にあったのかなあ、なんて僕はぼんやりと思う。まだ手を離そうとしない臨也さんの、握ったときは冷たかった手が、じんわりと暖かくなってきたのを感じていた。ぎゅっと握られたときの、あの鈍い痛みはきえてはいたから、自分から手を離すことも出来たんだろう、きっと。けれど、僕はそうしなかった。人がいなくなり、静かになり始めた夜の道に、僕の足音だけがやけに大きく響いている。
作品名:黒猫と夜 作家名:みかげ