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黒猫と夜

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「えっ」、といきなり手を引かれて、僕は驚く。そして強引に手を引かれた所為か、まだその場にとどまりたかったはずの僕の足は、簡単に臨也さんについていってしまう。止まろうとしたけれど、「自分で助けられるわけでもないし」、という臨也さんの声で、僕の足はまた、前に一歩動いた。
「それに、仮にたすかったとして、元々野良猫だったこの子がまたこうなるともわからない。帝人くん、きみはあの子の面倒をみれるの」。僕は、あ、そうか、そうだ、と、臨也さんの言葉に気付かされた。
「え、…あ、……いえ、みれません……」、僕はいいながら、ゆっくりと遠ざかる猫の黒い背中を振り返る。いわれてみればそうなのだ。仮に助かったとして、あの猫の面倒を誰が見るのだろう。僕は何もできないくせに、ただかわいそうだという理由だけで猫を助けようとした自分にすこし腹が立った。けれども、結果をみないで、今の感情だけで動くのが悪いことだとも思えなかった。「でも」、顔をあげた先の臨也さんの背中は、なんだかとても楽しそうだった。「でも?」、と少し僕を振り返る。
 いつの間にか僕と臨也さんは、急ぎ足の雑踏に中にまぎれていて、もう猫とはずいぶんと遠ざかってしまっていた。「無責任でも、助けてっていってるみたいに、聞こえ、たんです」、僕がそういうと、「君は本当におもしろい子だね」、と臨也さんがいう。「猫の言葉が分かるの?」、いいえ、分かりませんけど、「なんだ、そっか」、あの、「うん?」、どこへ、「うん」、連れて行くんですか。「どこがいいかな」。決めてないんですか。
「僕は家にかえりたいです」。僕がそういうと、臨也さんはうーん、それもいいけど、今日はだーめ、と、またぐい、と僕の手を引いた。



 手を引かれて歩きながら、僕は、肩にかかる鞄の重さと、ぎゅっと握られたままの鈍い手の痛みに、ふっと、意識を奪われて、行き先は、もうどうでもいいかなあ、と、あきらめのため息をひとつ飲み込んだ。ため息を聞かれると、また何か言われそうだったから。ぼんやりと、一瞬、ぶれた視界の端で、あ、とひとつ思いついたことがあった。「臨也さん」、と僕は、夜に溶けていきそうな背中に声をかける。ん?何?、と臨也さんが初めて足をとめて、僕を振り返った。
作品名:黒猫と夜 作家名:みかげ