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少年の恋/フィディオ×マーク

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 ああ可愛い、なんて、心の底から思ってしまった自分は性根がとことん悪いのだろう。

 イナズマジャパンに興味を持っていたフィディオは、彼らとユニコーンとの試合を観戦していた。練習の合間、空いた時間に来ていたので、後半の佳境に入った辺りからの観戦だったが、白熱ぶりは充分分かった。観客を巻き込んでの壮絶な試合、それはひとえに一之瀬という存在が全力のプレーを円堂にぶつけているからだろう。あの男があそこまで躍起になっている姿を、フィディオは初めて見た。FFIが始まり、確かに彼は十二分な気合いで勝ち進んできたものの、今日は何だかそのレベルが違う。例えば試合をするとき、大抵の場合は全力の力を温存していくものだ。一つ一つ、全力で戦っても後半まで保たなければ意味がないし、次の試合でボロボロになっても仕様がない。特にそのチームの中核となる者は必ず力を抑え、肝心なところで発揮する。そのメリハリができてこそのスター選手という訳だ。しかしながら今回の一之瀬は全くそれを念頭に置いていない。まるでこの試合が決勝戦であるかのような戦いぶりをする。普通の者ならば雰囲気に呑まれてしまったと考えるべきだが、あの一之瀬となると話は違ってくる。
フィディオはイナズマジャパンが敗退すると思っていた。しかし彼らは今回もフィディオの予想を裏切った。一之瀬に引かれて力を出し切ったアメリカ代表選手を打ち破って勝利したのはイナズマジャパンだった。
このあとに控えるアメリカとの試合のため、脳内で様々な分析を試みてみるが、どうにも様子がおかしかった一之瀬の手前、それがうまくいかなかった。小首を傾げながらも勝利に沸くジャパンの面々を見つめ、その後項垂れるアメリカチームを見つめた。見知った顔が落ち込む姿には心が痛むがこれが勝負の世界である。そんな中、フィディオは珍しいものを目にした。あのマークが膝を抱えて沈んでいるのだ。そういえば、あいつは負けず嫌いだったな、などと思考しながら、俯いていたとて、涙を必死に堪えているのだろう彼を、不意に可愛いなどと感じてしまった。

「うわぁ……不謹慎」
 諫めるような呟きを落としたフィディオは出口へ向かう観客達の流れを避けるために、しばらくじっとフィールドを眺めていた。

 立場として、別のチームのキャプテン同士である自分には、マークを励ます言葉も行動も思いつかないし、それを実際かけようとかしようとか、そんなことは思わなかった。だがしかし、あのときあの場所で、彼と同じチームであった自分を想像しては薄く、それでいて濃厚な甘い罪悪感が沸き起こった。チームメイトのことだとか、自分の立場だとか、そんな難しいことを引き合いに出すのではなく、ただ単純に、マークに優しい声をかけられる特権を手に入れた自分を夢想するだけなのだ。落ち込んでいるマークの肩に手を置き、少し顔を上げた相手の表情を見つめて頷いて、その弱った心ごと抱き締める。相手の体温、肌触り、ふわりとした髪の柔らかさや、耳元で聞く声、泣く寸前で堪え、上手く紡げなくなっている言葉。そうして彼の肩を抱いたまま、控え室まで引き返すのだ。頬杖をつきつつ、ポケットで携帯が鳴る音で我に帰ったフィディオは着信がマルコからであること、そして画面端に映っている時刻を見て、通話ボタンを押しつつ閑散とした客席を駆け足で抜けていった。



「やあ」
 自分でも上擦っていると感じる声を発して、フィディオは最後方を歩いていたマークに声をかけた。アメリカと日本の試合から数日、今日はイタリアとアメリカの対戦だった。どこか覇気のない彼はいつものように薄くて上品な笑みを浮かべるとその歩みを止めた。

「今日はよろしく」
 差し出された手を握りかえして微笑みを返す。何気ない会話をしながら、彼はフィディオがどんな想像をしたのか知りもせず、無防備な顔を見せていた。それが何だか滑稽で、いよいよ気分が良くなったフィディオは挨拶がてらに相手の頬へ口付けると、踵を返して自分たちのロッカールームへと向かっていった。
「今日は負けないからね」
 と、そんな言葉を残して。

 さて一之瀬という中核を失ったアメリカはやはりその能力を落としていた。突然失った部分を補うだけの時間的余裕も、心理的余裕もないようで、結果として勝利を収めたオルフェウスはいよいよ以て勢いづいてきた。試合後、チームメイトに囲まれながら彼を盗み見れば、案の定悔しさにその整った顔を引きつらせていた。しかし前回と違うのは他チームメイトが彼を励まし、フィディオの夢想の通りあの肩を抱いていたことだ。

「絶好調だったね」
 そんな仲間の声を聞きながら、笑みで返し、心の奥底には嫉妬の炎が燃えさかっていることをフィディオは自覚した。今日、ユニコーンを負かす気力となったもの、昨今頭を占める虚しい幻想、そして今感じているこの不快感、全てを繋げれば明白となる事実がある。沸き立つ声の数々に気持ちを戻しながらも、フィディオはマークを盗み見ることを止められなかった。

 次に彼と顔を合わせたとき、相手はもうあの乱れた表情は浮かべておらず、怖いほどに無感情だった。今、全ての試合を終えたアメリカ代表は他のチームの結果を待つばかりである。チームメイトとはぐれたのか、一人になりたかったのか判断はつかないまでも、街灯や店々の光が照らす街の一角、セントラルパークのひとけがないベンチに座り込んで呆然と浜辺を見つめていた。彼とこうして偶然巡り会えた事実、そしてまた偶然一人きりである事実、その二つがにわかフィディオを歓喜させた。しかし彼は迷ってしまった。やはり立場としては違うチームのキャプテン、しかも少し前に彼を負かしたチームのである。このまま一人きりにしてやった方がよいのか、それとも何かしらの声をかけた方がよいのか。逡巡したのち、フィディオは足の赴くまま、そのベンチへ向かっていた。
遠く、人々の喝采やら酒の入った陽気な会話やら、緩やかな音楽が聞こえ来る中、マークのいる場所からは寄せては返す波の音が何よりもよく聞こえた。視線を泳がせつつ、真っ直ぐに海を見つめたままのマークに近付く。声をかけるよりも先に、相手がこちらに気付いた。

「フィディオじゃないか」
「セーラ」
 片手を上げたフィディオは予想以上に普通の態度だった相手に意表を突かれた。端に寄ったマークに従ってその隣に座る。「今日、」その段で再び海を見ていたマークに声をかけられ一瞬腰を浮かせてしまった。
「完敗だったよ、さすが白い流星だ」
 そんなことを聞きたいわけではない。フィディオは僅か眉間を寄せると、迷う自分に叱咤して相手の手を掴んだ。

「やっぱり、落ち込んでいる所も儚くて素敵だけど、好きな子には笑顔でいて欲しい、そう思わないか、マーク」
 真っ直ぐに見つめられ、思わず怯んだマークは何のことだか分からないといった体で瞬きを繰り返した。長い睫毛に入り込んだ光がキラキラと輝いている。あの星々よりも数倍君のほうが綺麗だ!などと浮いた感情を吐露できずに、ただ握る手の力を強めた。

「君のことだから、しばらくすればまた笑顔に戻ると分かっている。それでも、いつまでもそんな君を見ているのは辛いよ」