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少年の恋/フィディオ×マーク

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 口をただ開閉しているだけのマークを、堪えきれぬと言った様子で抱き締めたフィディオは少し冷えたその体を温めるように背中をさすった。
「マークが笑顔になるんだったら、ここで君が泣いたことを胸に秘めることにもやぶさかじゃない」
 フィディオは知っていた。背中越しのマークが目頭に雫を溜めていることを。色々なことがあったのだろう。辛かったのだろう。フィディオは妄想し続けた。こいねがい続けた。彼を癒すのが、彼の涙を受け止めるのが、ただ一人、自分であればと。それでも今は、何より彼が自分の親しんできた、あの感情を薄く表情に乗せて微笑むマークを取り戻したいと願った。自分の中の愛情が、少し進化したのかも知れない、そう思いながらフィディオは更に強く相手を抱擁した。マークは声を上げて泣きはしなかった。しかしながら何も言わずに肩を震わせていた。かなり長い間そうしている内に、控えめな嗚咽は止まっていた。落ち着いたのであろう彼はその次、フィディオに抱かれたままくつくつと笑い声を落とした。何事かと少し距離を取ると、目元を僅かに赤らめたマークが、手の甲で口許を押さえていた。

「何がおかしいんだ?」
「だって、……いや、さすが、イタリア男子はちがうな、と、思って」
 茶化されているのかも知れない。そう思ったフィディオはムッとして自分の誠意をどう見せたらいいのか考えを巡らせた。しかしそれは、マークの浮かべた、いつものような薄い笑みでない、花が綻んだような笑みに霧散させられた。自分が惚れた相手は、なんて可愛らしい人なのだろうか。思わずまた抱き付き、体重を支えられなかったマークが後ろに倒れるのを支えながらベンチに押し倒すと、その勢いで唇を奪った。

「マーク、俺は本気だよ」
 性急さを示すように吐息で言い放つフィディオに、目元を更に赤くしたマークは、それでも余裕だとでも言いたげな笑みを浮かべていた。

「趣味が悪い」

 ああこれだから。フィディオは眩暈を抑えながら眼下の愛おしい人に触れた。頬を撫でて薔薇色の唇を指でなぞる。表情に乏しいかと思いきや、激しく落ち込んでみたり、思い切りのよい笑顔を見せたり、弱い部分があるかと思いきや、堅いガードで守られていたり、一筋縄でいかなかったり。

「そんな君だから好きなんだけどね」

 もう一度キスを落とす。抵抗されないだけでも歓喜してしまう想いを宥めながら、フィディオはひたすら思考を巡らせる。夢にまで見たこと、この人に触れることが叶った今、どうしたら、どうやって、その心を自分だけのものにできるだろうか。次から次へと沸き起こる欲望に参りながらも、もうマークから逃れることは、逃すことは、できそうにないと感じるのだった。