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通りすがり

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[通りすがり]
────────────────────────────────────────

――最初は。

どうしてあんな『人』がいるんだろうと思って、それからおかしな『人』だな・・・・・・って
思った。
その『人』に『出会った』のは、夕暮れ時の人と車の通りの多い交差点だった。

私は友人2人とこれから遊びに行く途中で、その交差点の信号待ちをしていた。
いつもこの信号は変るのがとても遅くて、ちょっと待たされる。
イライラするほとじゃないけど、急いでいる時は早く早くと思ってしまう。
それで手持ち無沙汰というかなんとなく視線を泳がしていたその時に、その奇妙な人を見つけた。
その横断歩道の真向かいに、人に紛れる様にその人は立っていた。
その人は男の人らしい。
けど、あんまり視力がよくない私の目じゃ、人の姿はみんなぼやけて一緒に見える。その人も例外じゃなかったけど、なんだろうその人の『服装』に自然に目がいった。
それを見てえっ!?って、思った。
だって・・・・・・つばの広い黒い帽子に黒いスーツ(それもスカーフの様なネクタイしてるの
よ!)っていう組み合わせ。妙にそれが浮いている気がする。
周囲の人たちは普通の格好とかしているのになんで、あんな格好しているのかな?
私は思う。
あぁでも、思い出した。
聞いたことがある。今時アニメとかマンガのキャラの服装をして成りきってやる人がいるって。
ああいうのって、えぇと確かコスプレーヤーっていうんだろうか。
でも、あんな服装している人っているのかな?
それに今時のキャラって、あんな服装をしているんだろうか―――。

目の前を車が通り過ぎて行くのに、私はその人からどうしても目が離せなくなっていた。
ぼやけて見える世界に一点だけ黒い染みができて、どうしてもそれを拭えないようなそんな、感覚。
あんなに目立つ服装をしている人を友達や周囲の人は気づいてるんだろうか。
私はそっと横目で友人を見る。
でも、隣りの友人たちはおしゃべりに夢中であの人に気づかないみたい。
それに・・・・・・周囲の人だってその人に注目さえもしない。
変な人が紛れ込んでも知らんぷりしている?それとも関わらないようにしてる?
ともかく誰もその人に気づいていない。
「・・・・・・やだなァ」
私は、ため息をついた。
だって気づいてるの、もしかしたら私だけって思ったら気持ち悪いじゃない。
それに、もしあの人が私に気づいたら?考えただけでも怖い。
怖くなった私はその人から視線を強引にそらした。
「・・・・・・でねぇ」
「ヤダぁ、キモっ」
友人たちは他愛ない話をしてクスクスと笑っている。
私は黙ったままそれを聞いていた。
さっきまで楽しい気分だったずなのにどうしてこんな思いをしなきゃなの。
なんでこんな嫌な気分になるの。

"とおりゃんせ、とおりゃんせ"

逆方向の信号が変わって車の流れが停まった。信号機があのいつものメロディを奏で始める。
瞬間的に視線を信号機に向ける。私はドキッとした。
・・・・・・信号が青に変った。向こうからこちらへ人が向かって来る。

"とおりゃんせ、とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ・・・・・・"

二方向から人の波が動く。
私もその人の波にさらわれるように歩き出した。あの『人』が、こっちへ,来る。
――そう思ったら、すごく。
(怖い)
誰も,誰もあの人が変だって思ってないの?
私は救いを求めるように隣のすぐそばの友人に視線で助けを求めた。でも友人は携帯を耳に当ててこっちを見ようとしない。そして、もう一人の友人も。
・・・・・・逃げ出してしまいたい。この場所からすぐ走って逃げたい。
そう思っても交差する人が多すぎて、逃げるのはきっと適わない。
なら・・・・・・
じんわりと冷や汗が背中に流れるのを感じながら私は胸に手をあてる。
なら・・・・・・怖いけど、このまま歩いて行ってそ知らぬ振りで通り過ぎよう。
あの人が私に気づかないように。そして私が、あの『人』に気づいていると悟られないように・・・・・・。
通り過ぎる、人・人・人。その中を歩きながら私は気配を伺った。
渡っていくのはほんの数秒なのに私の中では、その時間がひどく長く感じる。
私は思いきって視線を前に向けた。
視界の中であの『人』が近づいて来るのが見えた。私は慌てて視線をそらし、俯いた。
どうぞ、『私』に気づきませんように――・・・・・・そう思いながら。

"天神様の細道じゃ
御用のないもの 通しゃせぬ・・・・・・"

「?」
ザワザワとした周囲の音が突然、聞こえなくなった。
私はそれに驚いて顔を上げて立ち止まってしまった。
「・・・・・・ぁ」
私は息をのんだ。
すぐ手が届く、そんな距離にあの人がいた。少しずつ人の流れに逆らうよう近づいてくる。
そしてつばの広い帽子の向こうから、私を――・・・・・・私を見て、目があった。
その視線に射すくめられて私は、そこから動けなくなっていた。
「――――――やぁ」
男は目の前に立つと唐突に私に向かってそういった。
なんなの、この人?何をいってるの?
一瞬、何をいわれたのかわからなくて、ようやく『それ』が挨拶の類だという事に思いあたった。
「あっ、・・・・・・あなた、誰?」
思わずそう問いかけたらその人は興味深そうに微笑した。
「面白い。そう切り替えしたか。」
「・・・・・・?」
なんで、そんなことを聞くのだろう?やっぱり変な人だ。この人。
私は言葉もないままに、見つめ返した。
「では、僕も聞き返そうか。『お前は、誰だ?』」
『お前は,誰だ?』
その言葉がぽつん、と私の心の中に波紋の様に広がっていった。
そして私は『私』だって、そう思っていたものが足元から崩れていくのを感じていた。

私は、私は、私は―――・・・・・・・・・・・・『私』は、

それまで鮮やかだった世界が・・・・・・周囲の建物とか、風に吹かれて揺れる木々とか,通り過ぎる人の服の色が視界の中で、見る見るうちに色褪せていく。
「もう、わかっているはずだ。」
ゆっくりと私は視線をその人に向けた。
歪んでいく視界の中にその人がいた。黒い影法師の様に佇んでいた。
その黒い瞳に『私』を、映して・・・・・・
唇を動かしたけれど、もう動かなかった。
だって・・・・・・もう、考えなくていいんだもの。


"行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも・・・・・・"


――また、あのメロディが流れれば・・・・・・


作品名:通りすがり 作家名:ぐるり