1111panic!
「で、ゲームってなんなんだよ」
「それは、あの、その…」
ゲームをしたいと言いながらなかなか本題を切り出さないレイに十代は不思議そうに首をかしげた。
(どうしよう…!いざ切り出そうとすると勇気が要るよ…)
「ポッキーゲーム、ね」
不意に後ろから掛かった声にレイはドキッとして振り返る。
「明日香センパイ…!」
「お、明日香まで」
2人が振り返った先にきりりと唇を結んで佇む明日香が居た。
(もう万丈目センパイ、頼りにならないんだから…!)
近づいてくる明日香にレイが心の中でため息をつく。
「何なんだ、そのポッキーゲームって?」
「今日、つまり11月11日はポッキーの日って言われているの。だから、それにちなんでポッキーを使ったゲームを、というのが一部で流行っているのよ」
「へぇー、そうだったのか。それならそうと早く言えば良いのに。どんなゲームでも受けて立つぜ、レイ!」
「えっ!?あ、あわわわわはっはい…っ!」
「待って、十代。私も貴方とゲームをしようと思ってここに来たの。受けてくれないかしら?」
レイに向き直る十代を明日香が止める。急に十代に話を振られて動揺していたレイだったが、その言葉に我に返ると勢い良く反論した。
「ちょっと待ってよ明日香センパイ!十代様にゲームを先に申し込んだのはボクだよ!」
「でも、ゲームの話題を切り出したのは私よ。私にも権利があるわ」
「そんなのずるい!」
「じゃあいっそのことデュエルで決めましょう。勝った方が先に十代とゲームをする、それでいいでしょう?」
「望むところよ!」
言い終わるなり勢い良く決闘盤を構え一触即発の2人を十代はあっけに取られて見つめていた。
「な、なにがどうなってこういうことになるんだ…?」
「あーあ、あっちはとうとう修羅場に突入っすね」
「アニキはもてるから大変ザウルス」
偶然現場を通りかかり、ことの成り行きを見守っていた翔と剣山は顔を見合わせてため息をついた。
「ところで丸藤先輩は目当ての女の子とか居ないドン?」
「ぼくの永遠のヒロインはブラマジガールだからいいの。剣山君こそどうなのさ」
「俺はアリスちゃん一筋ザウルス!でもいつになったらまたアリスちゃんと話せる日が来るやら…」
2人は顔を見合わせるともう一度ため息をつく。と、その視界の横によろめきながら移動する人影が目に入った。
「あ、万丈目君」
「あっちもあっちでダメージでかそうザウルス」
地面に膝をついた万丈目が力なく見つめる先では明日香とレイが激しいデュエルを繰り広げている。
「まさかこのオレ様が敵に塩を送ることになってしまうとは…おのれ十代、この借りは必ず返してもらうからな…!!」
「もしもーし、万丈目くーん」
一人決意を新たに十代への敵意をむき出しにしている万丈目に翔が声をかけると、初めて気づいたのか万丈目は慌てて振り向いた。
「はっ!お前達、いつからそこに居た!?」
「いつからって、さっきからここに居たドン」
「万丈目君の気持ちはよーく分かるよ。ともあれ、ご愁傷様」
「う、うるさい!だいたい翔、それが人を慰める顔か!?思いっきりにやけてるじゃないか!!」
生温い微笑で慰める翔に万丈目が突っかかる。
「大人気ないドン万丈目先輩!丸藤先輩も根性悪いザウルス」
危うくケンカに発展しそうな雰囲気に慌てて剣山が止めに入る。
「万丈目先輩はまだ相手が人間の女の子だから良いザウルス!俺なんか…俺なんか、アリスちゃんとはもう二度としゃべることが出来ないかもしれないザウルス!!それに比べたらまだ万丈目先輩にはチャンスがあるドン!ここでくじけちゃ駄目ザウルス!!」
説得の途中で次第に涙目になる剣山。お互い前途多難な恋の道に身を投じる者としての何かを感じ取った万丈目はハシッと剣山の手を取った。
「剣山…!」
「万丈目先輩!!」
「そうだ、オレ達はどんな困難にも諦めず前に進むべきなのだ!戦い続けるぞ剣山!お互いの恋を実らせるために!!」
「はい、万丈目先輩!」
「天上院くーん!!」
「アリスちゅあ~ん!!!」
2人の男の魂の慟哭が冬の空に響く。それぞれの修羅場を前に翔は一人ため息をついた。
デュエルアカデミアは今日も平和である。
【終了】
作品名:1111panic! 作家名:結香