1111panic!
「十代様ー!」
「んあ?レイ、どうしたんだ?」
アカデミアのメインドーム上にあるテラスでいつものように授業をさぼっている十代を見つけ、レイは意を決して駆け寄っていった。
「あ、あのね十代様、ボクとゲームで勝負して欲しいんだ…」
「?」
「よし…うまく十代を足止めできそうだ、今のうちにオレは天上院君を…!!」
柱の影からその様子を見届けた万丈目は明日香を探すべく元来た道を早足で引き返す。
と、いくらも進まない場所で万丈目は目当ての人の姿を見つけて足を止めた。
「!万丈目君!?」
「天上院君…!丁度良かった、君を探していたん…だ……?」
万丈目に気づいた明日香は手に持っていた『何か』を後ろに隠す。気まずそうに頬を染めて目をそらす彼女の行動にしばし疑問符を沸かせていたが、ふと脳裏にある推理がひらめいた。
(はっ!明日香さんが今後ろに隠したものはもしかして…!)
そう、彼女も自分と同じ目的ではないのか、と。
(明日香さんがポッキーゲームで勝負するためにオレを探してくれていた…!?そうだ!きっと間違いない!!)
嗚呼、恋とは勘違いの積み重ねなり。一度暴走した万丈目の思考はあらぬ方向へ飛躍していく。
(だとするとオレと明日香さんの思いは同じ!ならば悩める彼女の決意を後押しするのが男というもの!)
「天上院君、何か悩み事でもあるのか?表情がすぐれないが…」
「え…ええ、ちょっとね」
「このオレでよければ相談に乗るよ。話してみてくれないか、天上院君…!」
お互いの息が感じられるほど近くに勢い良く詰め寄る。彼のその迫力に気圧された明日香だったが、やがて一つため息をつくといつもの冷静な笑顔で口を開いた。
「…そうね、万丈目君なら良いアドバイスをくれるかもね。私、これからある『勝負』をしにいこうと思っていたところなの。でもなかなか勇気が出なくて。おかしいでしょう、いつもの私らしくないわよね」
自嘲気味に微笑んでみせる彼女。いつもは見せない弱気な表情に万丈目の胸が痛んだ。
「どんな勝負にも全力で立ち向かう、それが私の生き方。だけど、それが今はとても重い…こういうこともあるのね…」
(明日香さん…)
「いや、良く分かるよ天上院君…実はオレも、これから大事な『勝負』に行こうと思っている。とても大切な勝負だ。だけど大切な勝負こそそれだけ勇気が要るものだ」
ひとつひとつの言葉を万丈目は精一杯の誠意を持って紡ぐ。
「天上院君、『勝負』というものは挑む相手にどれだけ強く気持ちをぶつけるかが大事だとオレは思っている。伝えたいことでも勝ちたいという思いでも何でもいい、相手に負けないくらい強く。その想いがあればきっとどんな勝負にも勝てる。きっと…!」
それは万丈目の本心だった。いつしか彼はゲームのことなど忘れ、決闘者として明日香に想いをぶつけていた。
初めて彼女に惹かれたのは何事にも屈しない強さだった。
誰よりも気高く、誰よりも勇ましく戦う彼女の姿が好きだった。
そんな彼女が今はとても心もとなく見える。男として、そして何より決闘者として彼女の力になりたい。
「万丈目君…!」
名前を呼ばれてはっと我に返る。万丈目は自分の言った言葉を今更のように認識して自分の体温が上がるのを感じたのだった。
「あ…いや、その、つい熱くなってしまって…」
慌てて言い繕う万丈目を明日香はあっけに取られて見つめていたがやがて小さく吹き出すとにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、万丈目君」
「えっ?」
「そうよね、勝負する前から気持ちで負けていてはダメよね。おかげで勇気が出たみたい。あなたに相談して良かったわ」
「て、天上院君…!じゃあ…!」
好印象な言葉に万丈目の胸が高鳴る。忘れかけていた期待が胸に膨らみ、言葉を続けようとした彼に、明日香は頷いた。
「ええ。お互い頑張りましょう!」
「えっ…あ、は、はい……」
軽くにぎり拳を作って差し出す明日香に慌てて合わせる。拳同士を合わせて微笑むと、明日香はそのまま通り過ぎていった。
一人残された万丈目は唖然としたままその後ろ姿を見送った。
「……………こ…こんなはずでは…っ…」
思わず漏れた言葉。自分の行動が結局裏目に出てしまったことをワンテンポ遅れてようやく理解した万丈目はがっくりと肩を落としたのだった。
作品名:1111panic! 作家名:結香