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you love me

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「いーざやくーん」

調理台に向かう臨也に近付き、その細腰に両腕を回して後ろから抱き付く。こいつは案外こういうスキンシップに弱いから、まぁ多少はほだされてくれるだろう。俺も喧嘩や殺し合いになるのは避けたいしな。とか言いつつ、夕飯を作る臨也の姿が嫁さんっぽくて、ただ抱き付きたかっただけだったりもする。
ところが。

「……何? 今から火使うんだから、どいてよ」

俺の顔を見もしないまま、冷淡な口調で言われてしまった。普段から冷たい物言いをする奴ではあるが、この口調はやはりご機嫌斜めモードらしいぞと長年の経験から察する。

「おい、手前さっきから何怒ってんだよ」
「……別に。怒ってないし」

抱き付いたまま肩越しに顔を覗き込んでやると、ふいっとそっぽを向かれた。怒ってんじゃねぇか。
人参不在のカレーの具材たちが載ったまな板を見下ろして、俺は先程思い付いた点を指摘してみる。

「なんだよ、悔しかったら人参嫌いぐらい早く直せばいいだろ」

その途端。

「……!! シズちゃん、やっぱり気付いて……何で俺が人参嫌いなこと知ってるわけ!?」

臨也が愕然とした声と表情をしてこちらを振り向いた。予想外の反応に、俺は少したじろぐ。

「いや、何でって」
「俺、馬鹿にされるのとか嫌だから、今までシズちゃんの前で人参残したりしたこと絶対にないのに……何でばれてるわけ?」
「はぁ? そんなもん、ずっと手前を見てりゃ分かることじゃねぇか」

真っ赤になって「何でずっと見てるんだよ!」と喚く臨也に俺は首を傾げる。昔も今も、こいつは人参を食べるときには少しだけ眉を顰めるのだ。知ってて当たり前のように思っていたが、そんなに極秘事項だったのか? 手前だって、俺が子供舌なことには高校の頃から気付いていて、よくからかってきたじゃねぇか。

「それとさ、俺が一人でカレーのルーを探しに行ってるときに、シズちゃん―――」
「ああ、違ぇからな。あの女の人はただのご近所さんで、浮気とかじゃ、」

やっぱり見てたのか、と思いつつ先手を打って否定するが、臨也はそれを更に否定してきた。相変わらずの真っ赤な顔で。

「そういう話じゃなくて! あの人に『お買い物ですか?』って聞かれて、自分が何て応えたか覚えてないの? シズちゃん、真顔で『ああ、ちょっと嫁と』とか言ってたでしょ? ほんと信じらんない、誰が嫁だよ誰が! 俺は立派な成人男子だっての! ていうか、いつの間に結婚したんだよ俺たちは!」
「ああ……そんなことを言っちまった気も……まぁ、まるきりの嘘でもねぇし、良いじゃねぇか」

こうやって俺のために夕飯だって作ってくれてるわけだし。致し方ない、こっちはずっと新婚気分だったんだ。別にあの人はそこまで付き合いがあるわけでもないし、特に問題はないと思うが。

「良くないってば! ……あと、荷物詰めるときだって。シズちゃん、自分は野菜とかお酒とか重いものばっかり袋にずんずん詰めていって、俺には嵩張る割に軽いお菓子ばっかり残してくれただろ?」
「え……そうだったか?」
「無意識かよ……もう何なんだよ、シズちゃん」

臨也は再びそっぽを向いてしまった。その赤くなった耳を眺めながら俺は考える。
こいつの不機嫌の原因を探る俺の推理は、どうやら少々ずれていたようだ。ええと、つまり、要するに。

「…………………おい臨也、要するに、手前は何が言いてぇんだ?」

ストレートに問う俺の言葉に、臨也は俯いてふーっと長い溜め息をつく。それから奴は心なしか潤んだ目でこちらをきっと睨みつけて、言った。

「―――シズちゃんは、俺のことが好きすぎると思う」

……なるほど。つまり、要するに、臨也は怒っていたわけじゃなくて。

「何だ。俺に愛されすぎてて、照れてたのかよ」

にやにやしながら冷やかすように言ってやる。なるほど、買い物中に口数が減って無愛想になったのは、単なる照れ隠しだったってことか。

「……違うって。人の好き嫌い知ってるとかストーカーっぽいし、勝手に人を嫁呼ばわりするとか完全に妄想だし、俺に重いもの持たせないなんて何紳士ぶってんだこいつ気持ち悪いって思ってただけ」
「嘘つくなって」

「本当だって」と言い張る言葉を無視して、俺は臨也の腰に回したままの両腕に少し力を込めた。ああ、何だか幸福感がどんどん増していく気がする。

そして俺は、もう一つ質問をしてみる。

「でもよぉ、臨也。手前だって俺のこと好きだろ?」
「……はぁ? 自意識過剰なんじゃないの?」
「いいから、素直に認めろって」
「何を勘違いしてるのか知らないけど、俺はシズちゃんなんか大嫌いだよ」
「嘘つくなって、好きだろ?」

頑なに「本当だって、俺はシズちゃんなんか好きじゃない」と言い張りやがるのを聞き流して、俺はますます赤くなった臨也の耳元でくつくつと笑う。

まな板の横に置かれた、買ってきたばかりのカレーのルーの箱。臨也が選んだそれは、子供舌にぴったりの甘口だった。
作品名:you love me 作家名:あずき