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吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
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そんな筈ないだろ

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「やぁ、帝人くん」
声をかけたのは当然、予定のうちだった。
青葉たちと分かれて家に帰ってきた帝人を、臨也はアパートの手前で呼び止めた。
帝人はその姿を認めて驚きを浮かべる。
「臨也さん!お久しぶりです。あ、チャットではいつも会ってますけど」
相変わらず純朴そうな顔で臨也に向き直った。
「帝人くんは最近、交友関係が変わったみたいだね」
「ああ、後輩たちですよ」
「紀田くんからは音沙汰なしかい?」
「あ、正臣は…実はチャットでちょっと」
嬉しそうに帝人が答えた。
「正臣は、離れてても色々心配してくれてるみたいです」
むか。
(?)
帝人の疑いのない無邪気な笑顔に、臨也は突然妙なむかつきを覚える。
「…へえ?」
「あのでも、直接の連絡はないんですけど…何か?」
「いや、それならいいんだ」
やっぱりあの臆病な紀田正臣は、自分では帝人に接触していないらしい。
馬鹿だねぇ、と正臣を嘲笑うことで臨也はむかつきを相殺する。
本当に大事なら、その手で守ってやればいいものを。
また後悔すればいい。俺は容赦はしない。
こんなに楽しいものを手放すものか。
「正臣と会うのは、もう少し先でいいんですよ」
独白のような帝人の声がふいに耳に届いた。
臨也はその声質に微妙に違和感を抱いて帝人を観察する。彼はその視線に気がつかず前を見据えてもうひと言呟いた。
「もう少ししたら、僕が正臣を助けてあげられるんです」
まるで何かを信仰しているかのように口元だけで笑った。
「……」
(ふうん?)
不快感と違和感がごちゃ混ぜになった。
何かおかしい。
「あ、なので臨也さんにまた協力してもらうかもしれませんけど、よろしくお願いします!」
にっこりと純粋な笑顔で帝人が臨也を見た。
「ああ…待っているよ」
なにかがちくちくとした。小さい棘がどこかにひっかかっているような感触。
しかしまだその意味をはっきりと捉えられない。
手の平に乗っていた何かが、自分の知らない動きを勝手にし始めたように気持ち悪くなる。
「帝人くん」
臨也は咄嗟に帝人の腕を捕まえた。
「臨也さん?」
しかし帝人のその反応は特段変わりはなく。
どろりと不安が押し寄せてくる。
「どうしたんですか?」
「いいや…」
「臨也さん、僕は臨也さんを信頼してます」
いや、前の彼はこんなことをわざわざ口に出すことはなかったはずだ。
「やっぱり頼りになるのは臨也さんだな、ってよく分かったんです」
晴れがましい笑顔。この少年の動じなさは何か違和感がある。
臨也は口元を押さえた。
「臨也さん?気持ち悪いんですか?」
いや、違う。そうじゃない。
何かがすりぬけていきそうで。
誰だ。これは。
臨也は捕まえた腕を引き寄せて、帝人の身体を抱きしめた。
「!」
「いぃぃ臨也さんっ?」
そこでやっと帝人の声が動揺する。妙にそのことに安心した。
「帝人くん、何かあったら、いつでも呼ぶといい。…俺を」
抱きしめたまま言った。その声がやけに真面目な声で自分でも不思議だった。
何故俺はこんなことに真剣になっている。
調子が狂う。
「あ、はい」
耳元で帝人が頷いた。
疑いのない自分への信頼。それは確かに感じていた。
そのことに安堵していること自体、自分らしくないということに臨也は気付かない。
身体を少し離した。
「臨也さんがいてくれて良かったです」
眉をすこしゆがめて帝人が笑った。

そう、それでいい。
頭の中を俺のことで埋めつくしてしまえ。
そう思うのに。この俺の焦燥感はなんだ。

頬に触れた。その口元を指でなぞって、
臨也は自分の唇で、帝人の唇を笑みごと掬い取った。

今、自分のものにしてしまわないと。
どこかへ行ってしまう。
そんな危機感が頭のなかに次々と沸いていた。

「!」
帝人は軽く目を見開いたが、特に抵抗はしなかった。
さらに意外なことに、唇を割って進入しようとする臨也の舌に呼応するように自ら口を開いた。
「ぅん…っ」
思いのほか深く口付けが交わった。
お互いの熱い吐息が漏れた。唾液が帝人の口の端からあふれ、臨也は親指でそれを拭う。
唇が離れ、銀の糸が二人の間で名残惜しそうに引かれて、切れた。
「抵抗、しないのかい?」
ぺろりと舌で自らの濡れた唇を舐めて低い声で臨也が尋いた。
「しませんよ。僕は臨也さんのこと好きですから」
帝人は微笑んだ。寒気がするほど曇りのない瞳で。
そのまま帝人の唇がもう一度近づいて、臨也に触れた。
音も立てずに離れる。臨也を覗き込んで、笑った。静かに。

それは見たことのない顔だった。






「まったくこんな時間に誰かと思ったら、臨也か」
「深夜の割増料金は払うよ。ったくあんなところでシズちゃんに出会うなんてついてない」
高級マンションの一室で、腕をおさえた患者の突然の来訪に、白衣を着た医者は驚きもせずに応えた。
「いつもうまく避けるのに珍しいなぁ直撃をくらうなんて。何を投げられたんだい」
「どうでもいいだろ」
「あれ?もしかして逆ギレ?おーいセルティ来てみなよ珍しいものが見れるよ!」
「いいから早く治療してくれ。今さら君たちのことを邪魔する気はないからさ」
おやおや。
岸谷新羅はソファに座りこんで投げやりに話す臨也を眺めて興味深そうに心の中で呟いた。
本当に苛立っているようだ。
「誰かな、君を振り回しているのは。大物登場?」
「振り回す?誰が、誰を?言っとくけど、俺にはそんな趣味は…つっ!」
「うーん、さすが静雄だ。見事にぽっきり折れてる。まさか静雄に振り回されてるんじゃないよね?」
「そんな馬鹿なことがあれば廃業して隠居するさ」
「じゃあ、やっぱり他に誰かいるわけだ」
「…新羅」
「はいはい。別に骨も曲がってないからこのまま固定しとけば大丈夫だよ。割増分はサービスするよ。珍しい臨也が見られたからね。良かったら今度紹介してほしいなぁ、君をこんなに振り回している人物をさ」
「……」
言い返してやりたい色んな言葉を無理やり押さえ込んで、臨也は何も語らず新羅のマンションをあとにした。



俺が振り回されてるだって?あの帝人に?
(やめてくれよ。馬鹿馬鹿しい)
痛む腕を押さえた。
だがあの後、胸の中がもやもやとして落ち着きがなかったのは確かだ。
そんなときに静雄に見つかって、ホストクラブの看板を投げつけられて負傷したのも確かだ。

だけどこの俺が、誰かに振り回されるなんて、ありえない。
「帝人くんは、駒だよ」
目下、今一番の隠し兵器であることは確かだけれどね。

熱の残る唇に手の甲で触れて、臨也は自分のマンションの部屋から下界の夜景を見下ろす。

「俺を動かせるのは、俺だけだ」

俺は将棋盤でも駒でもない。誰かの采配なんて必要ない。
目前に広がる赤や白の光は、瞬くだけで何も答えない。
帝人の静かで底の見えない瞳が、光に重なり脳裏に浮かぶ。
いつもなら自然とこみ上げてくる笑いも快感も、何故か今日はどこからも沸いてこなかった。



作品名:そんな筈ないだろ 作家名:吉野ステラ