星空パーティ
「リキ、腹ペコだも」
「だったらちったあ手伝えよおっさん!薪拾い当番は俺とおっさんだろ!?」
「腹ペコだから動けないんだも!ライン、リキの分まで拾うも!」
真っ暗闇を照らす星々。生い茂る木々の隙間から見えるそれらは、自分が一番輝いていると競い合っているようにして、一層の輝きを放っていた。
その下でなにやら言い争いを行っているのは、まだ年若いが大きな体躯と、それに見合う力を充分持っている青年ラインと、今年の伝説の勇者に選ばれ、ひょんなことから彼らの旅に同行……リキからすれば彼らが同行者なのだが……しているリキ。
モンスターの影に警戒しつつ、ラインの腕には数本の木が集められていた。
「ったく、なんで俺がおっさんと一緒に……」
「おっさんじゃないも!ラインだって寝るとき大いびき掻いておっさんみたいだも!リキうるさくて眠れないも!」
「だったらお前は一日中うるさいじゃねえか!」
「も~~~!!」
そんな言い合いは一向に終わる気配は見せず。それは即ち、薪集めが進まないことを意味していた。
ラインが集めた分を見積もると、今夜一晩過ごすにはぎりぎりのところで事足りるのかもしれないが、何せ野宿だ。何があるのかわからない。多めに薪を集めてきてくれ、とダンバンに頼まれたはずなのだが、どうやらふたりそろってすっかり失念しているようだ。
リキは、手のように自在に動く羽を大きく動かして、ラインの腕を何度も何度も叩いた。しかしふわふわした毛並みを持つノポン族。痛みなどあるはずもなく。
「おっさん弱ぇなあ?」
おもしろがるようにしてラインは笑った。
「く、悔しいも!リキ負けないも!!」
そんなリキの必死の猛攻は、更に激しさを増した。と言っても、傍から見れば和む光景でしかないのだが。
「何を、しているのだ?」
戻ってこないふたりを心配して迎えに来たらしいメリアが、心の底から呆れた表情を見せて立っていた。
心配など無用であったか、とその表情が物語っている。
「戻りが遅いから迎えにきてみれば……このようなところで油を売っておったとはな」
「違うも、メリアちゃん。ラインは油じゃなくてケンカ売ってきたんだも」
「おっさんが仕事しねえのが悪いんだろ!」
まるで子供のケンカである。
「ふう……そなたたちはいつでもやかましいな。さあ早く戻るぞ。みなが痺れを切らして待っておる」
戻りながらいくつか薪を拾っていけばいいというメリアの促しに従って、ラインとリキは彼女についてその場を離れることにした。
「美味そうな匂いだな」
「ちょっとダンバン、つまみ食いなんて行儀悪いわ」
「ほんとだ、美味しそう」
「シュルク……そっちはまだ味付けしてないわ……」
「もう、お兄ちゃんもシュルクも相変わらずなんだから」
ラインとリキが薪拾いに向かい、そして一向に帰ってこないふたりをメリアが迎えにいっている間、待機組ではそのようなやりとりが行われていた。
味音痴のシュルクに、味付けがよくわからないと断言するダンバン。同じく料理は出来ないラインに、そもそも食文化の違いが生じるリキ。皇族ゆえに
自分で料理などしたことのないメリア……。このメンバーだと、殆どカルナとフィオルンの交代で料理をしなければならない。
現にフィオルンが合流するまで、一行の料理担当はカルナだった。
フィオルンがいて助かった、このメンバー誰一人として料理を任せられないんだもの、と言っていたのは記憶に新しい。
以前彼らの料理を口にしたことがあったがゆえの、カルナなりの正義感というか責任感のようなものだった。
「カルナの料理、すごく美味しいからいつも楽しみだよ」
「ってシュルク。あなたいつもそれしか言わないじゃない」
「えー、そうかなあ?」
参ったように頭を掻くシュルク。でも美味しいものは美味しいし……とぼやく姿は、以前フィオルンの前でも同じことをやったな、とダンバンは思った。
「一言で美味しい、って言っても、味付けがいいとか、火加減が丁度いいとか、いろいろあるじゃない」
「そんなものなのかなあ……。ダンバンさんはどう思います?」
「それを俺に訊くか?俺の料理の出来なさはお前もよく知ってるだろう」
そうでしたね、とシュルクは笑った。本人も言うとおり、ダンバンは料理が出来ない。
利き腕の不自由もあるのだが、やはり根本的な部分で駄目らしい。
「にしても不思議ねえ……。料理が全く駄目なダンバンに育てられたというのに、フィオルンはあんなに料理上手だなんて」
「まあ……俺は料理は教えてないからな」
「そうそう。近所の人が作りに来てくれて、そのとき一緒に作って覚えたのよ」
なるほどね、と納得してカルナが頷いた。火に炙られてこんがり色をつけていく骨付きモモ肉が、いい匂いを放ってくる。
「なら、ダンバンさんも一緒になって覚えたりしなかったんですか?」
シュルクが訊ねると、ダンバンはばつが悪そうな顔をして俯いた。すかさずフィオルンが割り入る。
「それがね、お兄ちゃんたらいくら教えても覚えなかったの。最初はお砂糖とお塩の見分けだってついてなかったんだから。ね?」
「やめないか、昔の話だ」
「ダンバンさんにも、苦手なものってやっぱりあるんですね」
フィオルンが笑い、シュルクもつられて笑う。カルナは火加減の様子を見ながら、あんまりからかわないであげなさいよ、と言うが、彼女も思い切り笑っていた。
どうにかして話を切り替えよう、とダンバンが口を開こうとした瞬間、
「おーい!」
「戻ってきたも~!んん!すっごくいい匂いするも!!」
「本当だな、私も腹が空いて来たぞ」
ライン、リキ、メリアの3人が戻ってきた。
一目散に駆け寄ってくるリキ。食事を心から待ちわびていたと見るからにわかる表情を浮かべて、用意された食事たちにありつこうとする……が。
「はいはい、まだ用意全部終わってないんだから」
すかさずカルナがそれを阻止した。リキの羽を掴んで持ち上げる。腰に手を当てて叱る姿は、まるで子と接する母のようでもあった。
これでリキの方がカルナよりずっと年上で、更に妻や沢山の子供を持っているというのだから、嘘のようだ。
全身をばたばたさせながら逃れようとするリキ。メリアに助けを求めたが、自業自得だと返された。
「メリア、お皿出してくれる?」
「承知した。こちらはもう盛り付けても良いのか?」
「ええ、お願いするわ。っとライン、焚き木をくべて」
「おう」
拾ってきた焚き木を1本、2本と火の中へ放り込めば、弱まってきていた火が力を取り戻す。
その炎が照らす彼らの表情は、笑顔に満ちていた。星明りと炎とが、交互に彼らを照らしあう。
幾度も幾度も野宿を共にした彼らの共同作業は、てきぱきと手際の良いもので。互いを熟知し合ったような動きは、すぐに準備を終わらせた。
「お兄ちゃん、食べさせてあげようか?」
「いらん世話だ」
無邪気に、しかしどこかいたずらに笑うフィオルンを、困った表情で見返すダンバン。もう何度同じやり取りをしたことか。
そんなフィオルンの手には、しっかりとエーデルプラムが握られていた。やはりいたずらのようだ。
「メリア、これ美味しそうだよ、食べる?」
「う、うむ、ありがとうシュルク」
「だったらちったあ手伝えよおっさん!薪拾い当番は俺とおっさんだろ!?」
「腹ペコだから動けないんだも!ライン、リキの分まで拾うも!」
真っ暗闇を照らす星々。生い茂る木々の隙間から見えるそれらは、自分が一番輝いていると競い合っているようにして、一層の輝きを放っていた。
その下でなにやら言い争いを行っているのは、まだ年若いが大きな体躯と、それに見合う力を充分持っている青年ラインと、今年の伝説の勇者に選ばれ、ひょんなことから彼らの旅に同行……リキからすれば彼らが同行者なのだが……しているリキ。
モンスターの影に警戒しつつ、ラインの腕には数本の木が集められていた。
「ったく、なんで俺がおっさんと一緒に……」
「おっさんじゃないも!ラインだって寝るとき大いびき掻いておっさんみたいだも!リキうるさくて眠れないも!」
「だったらお前は一日中うるさいじゃねえか!」
「も~~~!!」
そんな言い合いは一向に終わる気配は見せず。それは即ち、薪集めが進まないことを意味していた。
ラインが集めた分を見積もると、今夜一晩過ごすにはぎりぎりのところで事足りるのかもしれないが、何せ野宿だ。何があるのかわからない。多めに薪を集めてきてくれ、とダンバンに頼まれたはずなのだが、どうやらふたりそろってすっかり失念しているようだ。
リキは、手のように自在に動く羽を大きく動かして、ラインの腕を何度も何度も叩いた。しかしふわふわした毛並みを持つノポン族。痛みなどあるはずもなく。
「おっさん弱ぇなあ?」
おもしろがるようにしてラインは笑った。
「く、悔しいも!リキ負けないも!!」
そんなリキの必死の猛攻は、更に激しさを増した。と言っても、傍から見れば和む光景でしかないのだが。
「何を、しているのだ?」
戻ってこないふたりを心配して迎えに来たらしいメリアが、心の底から呆れた表情を見せて立っていた。
心配など無用であったか、とその表情が物語っている。
「戻りが遅いから迎えにきてみれば……このようなところで油を売っておったとはな」
「違うも、メリアちゃん。ラインは油じゃなくてケンカ売ってきたんだも」
「おっさんが仕事しねえのが悪いんだろ!」
まるで子供のケンカである。
「ふう……そなたたちはいつでもやかましいな。さあ早く戻るぞ。みなが痺れを切らして待っておる」
戻りながらいくつか薪を拾っていけばいいというメリアの促しに従って、ラインとリキは彼女についてその場を離れることにした。
「美味そうな匂いだな」
「ちょっとダンバン、つまみ食いなんて行儀悪いわ」
「ほんとだ、美味しそう」
「シュルク……そっちはまだ味付けしてないわ……」
「もう、お兄ちゃんもシュルクも相変わらずなんだから」
ラインとリキが薪拾いに向かい、そして一向に帰ってこないふたりをメリアが迎えにいっている間、待機組ではそのようなやりとりが行われていた。
味音痴のシュルクに、味付けがよくわからないと断言するダンバン。同じく料理は出来ないラインに、そもそも食文化の違いが生じるリキ。皇族ゆえに
自分で料理などしたことのないメリア……。このメンバーだと、殆どカルナとフィオルンの交代で料理をしなければならない。
現にフィオルンが合流するまで、一行の料理担当はカルナだった。
フィオルンがいて助かった、このメンバー誰一人として料理を任せられないんだもの、と言っていたのは記憶に新しい。
以前彼らの料理を口にしたことがあったがゆえの、カルナなりの正義感というか責任感のようなものだった。
「カルナの料理、すごく美味しいからいつも楽しみだよ」
「ってシュルク。あなたいつもそれしか言わないじゃない」
「えー、そうかなあ?」
参ったように頭を掻くシュルク。でも美味しいものは美味しいし……とぼやく姿は、以前フィオルンの前でも同じことをやったな、とダンバンは思った。
「一言で美味しい、って言っても、味付けがいいとか、火加減が丁度いいとか、いろいろあるじゃない」
「そんなものなのかなあ……。ダンバンさんはどう思います?」
「それを俺に訊くか?俺の料理の出来なさはお前もよく知ってるだろう」
そうでしたね、とシュルクは笑った。本人も言うとおり、ダンバンは料理が出来ない。
利き腕の不自由もあるのだが、やはり根本的な部分で駄目らしい。
「にしても不思議ねえ……。料理が全く駄目なダンバンに育てられたというのに、フィオルンはあんなに料理上手だなんて」
「まあ……俺は料理は教えてないからな」
「そうそう。近所の人が作りに来てくれて、そのとき一緒に作って覚えたのよ」
なるほどね、と納得してカルナが頷いた。火に炙られてこんがり色をつけていく骨付きモモ肉が、いい匂いを放ってくる。
「なら、ダンバンさんも一緒になって覚えたりしなかったんですか?」
シュルクが訊ねると、ダンバンはばつが悪そうな顔をして俯いた。すかさずフィオルンが割り入る。
「それがね、お兄ちゃんたらいくら教えても覚えなかったの。最初はお砂糖とお塩の見分けだってついてなかったんだから。ね?」
「やめないか、昔の話だ」
「ダンバンさんにも、苦手なものってやっぱりあるんですね」
フィオルンが笑い、シュルクもつられて笑う。カルナは火加減の様子を見ながら、あんまりからかわないであげなさいよ、と言うが、彼女も思い切り笑っていた。
どうにかして話を切り替えよう、とダンバンが口を開こうとした瞬間、
「おーい!」
「戻ってきたも~!んん!すっごくいい匂いするも!!」
「本当だな、私も腹が空いて来たぞ」
ライン、リキ、メリアの3人が戻ってきた。
一目散に駆け寄ってくるリキ。食事を心から待ちわびていたと見るからにわかる表情を浮かべて、用意された食事たちにありつこうとする……が。
「はいはい、まだ用意全部終わってないんだから」
すかさずカルナがそれを阻止した。リキの羽を掴んで持ち上げる。腰に手を当てて叱る姿は、まるで子と接する母のようでもあった。
これでリキの方がカルナよりずっと年上で、更に妻や沢山の子供を持っているというのだから、嘘のようだ。
全身をばたばたさせながら逃れようとするリキ。メリアに助けを求めたが、自業自得だと返された。
「メリア、お皿出してくれる?」
「承知した。こちらはもう盛り付けても良いのか?」
「ええ、お願いするわ。っとライン、焚き木をくべて」
「おう」
拾ってきた焚き木を1本、2本と火の中へ放り込めば、弱まってきていた火が力を取り戻す。
その炎が照らす彼らの表情は、笑顔に満ちていた。星明りと炎とが、交互に彼らを照らしあう。
幾度も幾度も野宿を共にした彼らの共同作業は、てきぱきと手際の良いもので。互いを熟知し合ったような動きは、すぐに準備を終わらせた。
「お兄ちゃん、食べさせてあげようか?」
「いらん世話だ」
無邪気に、しかしどこかいたずらに笑うフィオルンを、困った表情で見返すダンバン。もう何度同じやり取りをしたことか。
そんなフィオルンの手には、しっかりとエーデルプラムが握られていた。やはりいたずらのようだ。
「メリア、これ美味しそうだよ、食べる?」
「う、うむ、ありがとうシュルク」