恋に気づいた夜
静雄が目を覚ましたのは、それから数時間後の事だった。辺りがしんと静まっており、外灯の明かりが煌々としている。看病してくれていたのだろうか、トムのものと思われるダブルベットの上に眠らされていた。傷の痛みはなく、意識を失った間に着替えまでしてくれたトムに感謝をしなくては、と静雄は思った。
ふと右手に暖かなぬくもりを感じ、体を起こすとトムが横で眠っていた。トムの手は暖かく心地いい。心配していたのだろうか眼鏡をつけたまま、眠ってしまっている。
「トムさん、起きてください」
小さな声で呟いても起きないため、しばらく眺めていたらぽっかりとした心が満たされていく。
これが恋なのだろうか。恋愛に関しては憧れの人はいたがこれを省くと恋なんて初めてなのかもしれない。
「・・・・・おー、しずお?大丈夫か、怪我」
寝ぼけ眼でこっちを見つめるトムの表情を見たときには安堵からか気がつくと静雄の頬に涙がつたっていた。
「すいません・・また、迷惑かけちまって・・俺、トムさんが彼女さんいるのに・・こんな」
彼女がいるのは知っている分、迷惑かけられない。今度からは仕事の部下としてなるべく頼らないようにしよう。俺はノミ蟲が言う様に【化け物】なんだからな・・
愛するものを大切にしたいから拒絶しなくてはならない。静雄がそんな感傷に浸るのは一瞬のことでトムにきつく抱きしめられた。
「ばーか、彼女はなぁ・・とっくの通りにお別れしたっつーの、俺のことなんて気にすんなよ」
「俺のせいですか?」
「違うって。お前のせいじゃねぇよ」
心地よく撫でられる。気持ちいいけど、まだ不安だ。
「・・・・ぎりぎりのグレーゾーンで仕事しているからじゃねぇかな。怖いとか普通の男がいいって跳ね返されちまった。やっぱ女って堅気の男がいいのかね」
「トムさんは、素敵じゃないすか」
俺がいますってもし俺が女だったら、こんな力がなかったら言えるのに。
「あー、静雄みたいに気配りが出来る女の子がいい」
「ごついし、馬鹿力ですよ」
「いいんだべ。俺はそう思うな。力なんて送りものだと思えばいいんだって。力がなかったら俺にも会ってなかったわけだし・・出会いに感謝したいけど」
トムさんは俺の喜ぶ言葉をどうして知っているんだろう。貴方に釣り合う人間になりたい。貴方に【化け物】と思われようが、貴方の前くらいではただの後輩でいたいんです。いつか、貴方に釣り合う人間になったら、この気持ち伝えてもいいんですか?
その夜、恋に落ちた。池袋最強の男・平和島静雄は一人の男に恋に落ちていったのだった。